仕事初めまであと数日。稼働日に出来ないことを今のうちにやっておこうと会社へ。まず入荷したGold Lion KT66の実機選別作業を行います。

まず測定器による静的選別、これは多くの販売店でも行っていることですが、いわゆるチューブチェッカーでの測定条件は実動作環境と乖離していることが多く、二次選別として実機上で動作させて更に選別精度を高めることが有効です。
具体的にはSV-S1616D/多極管仕様において電源ON後180秒後のKT66カソード電圧を測定し、カソード抵抗値で除して実プレート電流値を計算します。この値の近い個体を対(ペア)にする作業です。
そして今日はもうひとつ。Mullard CV4004/ECC83のペアマッチ作業です。

私どもは出力管はIp(プレート電流)重視で選別するのに対し、電圧増幅管はGm(相互コンダクタンス)でペアマッチ作業を行います。特にSV-EQ1616Dのような利得の高い機器を使って検査することで非常に精度の高い検査が可能となります。
いまや300Bペア価格よりも高いMullard CV4004/ECC83ですからしっかり選別します。今回はHolland製とUK製、2種類のCV4004/ECC83が入荷したので、それぞれの取得値にも注目してみました。

Mullard ECC83/Holland

写真では分かり難いですがファクトリーコードからHolland Heerlen工場製,1968年(もしくは78年)5月第1週のロットであることが分かります。

そしてこちらが今や超プレミアとなっているUK製 CV4004です。今回は中期と後期ロット品が入荷しました。

無作為抽出した一本のファクトリーコードを確認してみましょう。この個体はMullard Radio valve Co., Mitcham(イギリス ミッチャム工場)製, 1967年2月第4週のロットであることが分かります。特にUKで製造されたMullardは貴重とされ価格も高価です。Telefunken ECC803SとMullard CV4004が12AX7系の最高峰とされていますが、その音はまさにヴィンテージ。中域の質感はナンバーワンです。
ところで今日の選別結果を集計していて面白い結果が出ました。下のグラフをご覧ください。

Y軸がGm値, X軸が個体数, オレンジ色がHolland製, グレーがUK製ですが、全般にHolland製の方がGmが高い、簡単に言えばハイゲインであることが分かります。
CV4004/ECC83系が何故これほどまでに高価で個体数も少なくなったかの要因については楽器用(真空管ギターアンプ等)での高い需要が背景にあったと言われている訳ですが、楽器アンプ用途のマーケットではHolland製がパンチがあってクランチ(クリーントーンをやや歪ませたサウンド)も効きやすいことから人気があるのも頷けるお話。オーディオ用途ではUK製の方がヒエラルキー的にも価格的にも上ですが、実際にHolland製 ECC83をEQ1616Dに挿して試聴してみるとダイナミックレンジが広く闊達さが印象的です。
ちなみに上のグラフでGmが一番低い個体と一番高い個体をEQ1616Dに挿してみました。

その差約2.5dB。これだけの差異があると聴いても定位がずれて明らかに分かります。いかに実機選別が重要であるかをお分かり頂けるかもしれませんね。