エレキットの新製品
「TU-8900」が入荷しました。皆さんの関心も高い機種ですので一台作ってみました。

結論から先に申し上げるとエレキットならではの極めて周到で合理的に検討されたモノづくりプロセスによってハンダづけの基本的技術がある方であれば電気的知識なくとも問題なく組立できる製品であることを確認しました。
写真を撮りつつCautionポイントを記録しながらの製作で一日で完成。経験の少ない方でも週末二日かけて頂ければ十分完成できると思います難易度レベルは★★☆☆☆。
製作,測定,試聴を経て感じていることは、恐らく国内外含め現行300Bアンプで最もシンプルで300Bの良さを手軽に味わえるキットということ。音質的にも十分期待に応えてくれる良品です。

エレキット製品を作ったのは一年ぶり位だと思いますが、感心したのはこの基板。よく見ていただくと分かりますがランド(被ハンダ部)にヘアラインが入っています、これによりハンダの喰いつきがよく、ハンダ不良が起こりにくくなっています。

とはいえ私のように老眼が進んでいる者はハズキルーペは欠かせませんし、ハンダ付け後はスマホのカメラ機能を使ってハンダ部分を拡大して確認してイモハンダ,目玉ハンダ,ブリッジがないことを都度確認します。TU-8900は作り易さ優先のため特に機構系パーツの差込クリアランスが大きめですので流すべき部位にはしっかりハンダを流して万全を期しましょう。
以下 いくつか製作中に注意した方がよいかも…というポイントがありましたのでお伝えします。これはTU-8900に限ったことでなく一つの”お作法”的なものといえます。


スイッチ類の水平が保たれていること。ハンダづけが終わって裏返したらあちゃ~という経験は誰にでもあるものです。片リードタイプのブリッジダイオードも斜めになりやすいので注意が必要です。

基板直付けのMT9ピンソケット。これも水平キープに工夫が必要なパーツのひとつです。私は一ケ所ハンダした後に裏返して水平を確認したのち、対角線位置のランドにハンダづけして機構的固定を確実にします。三か所以上のハンダづけが必要なパーツの修正は容易ではありませんので注意して作業します。

これはスピーカーターミナルの固定部分ですが、この手の大型パーツの固定が不十分なケースをよく見ます。当社へ修理で戻ってくるアンプの要因解析では約70%が単純なハンダ不良ですが、そのうち半数は機構系の締結も不充分です。正確なハンダと機構パーツの確実な固定は基本中の基本です。必要な工具はマニュアルに記載されていますので手許になければ事前に入手しておきたいものです。
ちなみに上の写真でナット部に青く塗布されているのは”
ネジロック剤”。日常操作の累積で緩みがちなスピーカーターミナル等には特に有効です。

あくまで補助的なもので締結が不完全なケースでは意味がありませんが上手に使うことで品質が格段に向上します。少量で十分効果を発揮します。

UX4ピンソケットの向き。矢印の向きに注意しましょう。

ダイオードの方向性。アノード/カソードは部品本体の線で確認します。線のある方がカソードです。ブリッジはプラスマイナスの極性に注意します。

TU-8900でも多くの方がカップリングコンデンサーをアップグレードされています。必要なのは
Arizona 0.1uF(2個)。TU-8900ではベースピンを立てる指示がありますので、しっかり絡げてハンダづけすると良いと思います。ポイントは
サボテンのマークがグリッド側を向くこと。二つ前の写真も併せてご覧ください。

基板連結部分のハンダづけ。ハンダを多めに流して後からクラックが入らないようにします。

ケミコンの極性。作業も後半になってくると集中力が下がって知らない間に逆づけ…なんてこともありますから適宜休憩をとりながら「一に正確、二に美しく、三にスピーディ」の優先順位で進めて下さい。早く音を聴きたいのは皆同じですが、後からやり直すのが一から作る以上に時間が掛かりますから、何事も落ち着いて進めて下さい。

重量のあるトランス類の固定もしっかり行って下さい。一次側、二次側の向きを間違わないように。

トランス二次側とコネクターの結線。マニュアルではCN105/205の取付位置が分かりにくいかもしれませんので写真を参考にして下さい。
先日のエントリーでも書きましたが、TU-8900は無帰還とNFあり(公称8dB)が選択できます。一概にどちらが良いということは決められませんが、NFありのゲインがかなり低めですので、目安としては
1. ゲイン20dB(程度)以上のプリを使う場合はNFあり。その他は無帰還を選択。
2. 能率100dB(程度)以上のスピーカーを使う場合はNFあり。その他は無帰還を選択。
あくまで私個人の印象としては、TU-8900について言えば特殊なケースを除いて無帰還を推奨と申し上げて差支えないと考えます。

電気的にはこれで動く状態になりました。早くシャーシを被せて完成!といきたいところですが、ここでやるべきは電圧測定。自分行った作業が正確であったことを自ら確認することはアンプ製作に留まらず非常に重要なことです。500V(以上)耐圧のデジタルテスターを用意します(アナログテスターは内部抵抗が低く微小電圧測定には不向きです)。真空管の挿入方向に注意し感電防止のため手袋をして作業して下さい。
晴れて電圧測定もOK。真空管のエージングを10時間程度行ってから試聴に入ります。今回組んだのはいわゆる最強バージョンですが能率96.5dBのタンノイ, 103dBのJBLでも残留ノイズなく300Bらしい繊細でニュートラルな音を楽しめます。前作TU-8600Sより少し手綱を緩めたリラックスした表現といえるかもしれません。


”作って楽し、聴いて良し”のTU-8900。秋の夜長のお供にいかがでしょうか。