スピーカーは惚れて買うもの…とは昔からよく言われること。理屈を超えたところで「これでなければダメだ!」的な衝動で手に入れるのが実は理想的なスピーカーとの出会いだったりします。
Nさんもそんなひとり。もともとDALIのスピーカーで楽しまれていたNさんですが、
Hさんの影響もあって偶々当社ショールームで聴いたJBL 4344の音に大いに感じるものがあったようです。
その後しばらくお会いしていない間に4344の良品を見つけられたと伺い、更には先日SV-2PP(2009)をお求めになられたので、今日お邪魔して音を聴かせて頂きました。
各種テスト信号でチェックした結果、4344はネットワークも振動系も全て正常。アッテネータのガリもなく問題ありません、とお伝えするとNさんは大変安堵されていました。製造から30数年経過している個体ですので、その過程で劣化している部分をどうメンテしたかまでは分からないのが中古の難しいところ。外見だけ見て購入し後で泣きを見るケースも少なくないだけに機器の程度が如何ほどか大変心配されていらっしゃったようです。
早速音を聴かせて頂いたところ4344らしい帯域バランスで鳴っているものの、大音量で編成の大きなクラシック再生時に僅かにウーハーとミッドバスのクロスオーバー付近でIM歪(混変調歪)に起因する濁りを感じる局面がありました。
4344のように低い周波数(320Hz)で帯域分割しているスピーカーでは分割に必要なL(コイル)やC(コンデンサー)の値が大きくなりアンプにとって伝送クオリティのマイナス要因となりかねません。言い換えればウーハーに供給される電位変動の影響によって中域以上の帯域が常時地震に揺さぶられた状態となって中高域が変調を受ける(音が濁る)リスクがあるのです。
この場合もっとも有効なのはチャンネルデバイダー(以降チャンデバ)を使ったマルチアンプ(バイアンプ)駆動です。4344では背面にINTERNAL/EXTERNALの切替スイッチがあり、EXTERNALを選択するとバイアンプ駆動が可能になります(チャンデバ必須)。
少々細かい話になりますが、4344のネットワークの回路図からEXTERNALを選択するとウーハー側のローパス(ハイカット)フィルター回路が切り離され、ウーハー側のスピーカーターミナルのプラス(ホット側)からの入力信号がダイレクトのウーハーに供給されるように変わることが分かります。同時にウーハーのマイナス(コールド側)のGND(アース)ラインがミッドバス以上と切り離される形となり、中高域がウーハーによって揺さぶられる現象から解放されることが最も大きいメリットとなります。またミッドバスのハイパス(ローカット)フィルターもバイパスされる代わりに優れたチャンデバが必要となるという形です。
今日用意されたのは4344EXTERNALモード指定のクロスオーバー周波数290Hzが選択できるチャンデバと中高域用のVP-6200(VT-62pp)です。低域の845に対して中高域も送信管を使うことで音色の統一感を得ると同時にクリアで優れた音場的表現を得るための必須の選択と言えたかもしれません。
INTERNALモードからEXTERNALモード(バイアンプ)に変えた効果は目覚ましいもので、まずウーハーのハイカット側のキレが格段に向上し中高域側に被る感覚は全くなくなりました。更にVP-6200の効果で高域の空気感(拡がり)が著しく向上し、当初に僅かに感じた濁りや曇りが全くと言っていいほど解消されたのが最大の効果でした。
バイアンプで一番難しいと言われる低域と中高域の繋がりも極めて良好で、オール三極管構成, オール送信管構成の勝利と言えたと思います。Nさんからは「素晴しく透明感のある見通しの良い音となりました。流石!」というメッセージもいただき、今日は非常に充実した一日となりました。