そのニュースは3/9に突然飛び込んできました。
2006年、前ぶれなく製造中止となったWestern Electric 300B。その後、再生産の噂が出ては消え、消えては出るの繰り返しで、WEのホームページでは製造のアナウンスが繰り返されたものの、アメリカ国内ですら現物を見た人は皆無で、次第に関係者の間でも復活は難しいと言われ、気がつけば製造中止から15年が経過していました。
それが急転直下の完成アナウンス。すぐ現地に連絡を取り事実か確認すると、今回はどうやら本当らしい…となれば居ても立ってもいられず、直ぐにオーダーを入れました。目的は電気的測定と音質確認。そのためには2本では不十分なのでマッチドクワッド(4本組)を購入することに。現地価格は3099USドル。それに関税と送料を加えるとかなりの金額になりますが、そんなことを言っている場合ではありません。本家Westernの復活となれば、何としても手に入れなければならない…そんな使命感にも似た気持ちでありました。
それから数日。一日千秋の想いで今日か明日かと待ち構えていた今日の午後、厳重に梱包されたダンボールが届きました。現地の方によれば
”The first pair out of USA”(アメリカ国境を越えた初めてのペア)だろうということで厭が応にも期待が高まります。
おずおずと開梱して目の前に現れたのは…


15年前と何ら変わらないその存在感。これぞ本家Westernならではの偉容です。

箱のなかには説明書, シリアルナンバー入りの測定データ, 保証登録カードが2006年当時のまま納められています。

なかでも最も重要な測定データシート。Ep=300V, EG=-58VにおけるIp値の測定法も当時のままです。

管内の各パーツもオリジナルから変更されていません。ガラスの薄さも当時のまま。人差し指で弾いた時の”御鈴(おりん)”のチーンという音程の高さもWE300Bならでは。

ベース部分のプリント。デートコード2113(2021年第一四半期)の奇跡は永遠に語り継がれることでしょう。

おむすび型のマイカもフィラメントのフック形状も含め外観上は全く変更されていません。

これがベース部に刻印されたシリアルナンバー。新ロットは3から始まっています。外箱, データシート, ベースの刻印、この三つの番号が揃って初めて完品といえます。
ここまでは申し分なし、いや期待以上の出来映えです。しかし私の今日の最大の目的はここからです。電気的特性が従来のオリジナルWE300Bと比較してどうなのか?…ということです。そのために急遽助っ人を招集。当社のアンプの組立をお願いしているSさんにショールームに来ていただいて精密に測定を行うことにしました。添付されているデータシートの客観性は果たして担保されているのか…?

これはプレート電圧とグリッドバイアスをスイングさせて真空管の動特性を記録する装置。すべての制御とデータ管理はコンピュータで行います。よく真空管データシートに載っているEp-Ipカーブを測定するための装置といえば分かりやすいでしょうか。WE300Bに添付されている素晴らしいEp-Ip特性が本当に再現されるか…自然と緊張が高まります。

左が製品添付のデータシート。右が今日現物で測定したデータです。まずは試しに2006年第一四半期の個体でデータを取ってみました。比較してみると環境依存と思われる2~3%の差異があるものの、ほぼ全ポイントで同様の差異が認められたことから測定結果の信頼性が極めて高いことが分かりました。
いよいよ今回のロットのデータを取ってみると…

プレート電流:56.93 mA, 内部抵抗:800 Ω, 相互コンダクタンス:4891μmhos, μ:3.9V/V

プレート電流:56.41 mA, 内部抵抗:820 Ω, 相互コンダクタンス:4753μmhos, μ:3.9V/V
というデータログが検出されました。全く非の打ちどころのない本家本元ならではの値です。電気的に間違いなものが復刻されたことが分かり、まずは大満足。2006年当時の約2倍の価格も已む無しといえるかどうかは音質確認を行ってからすることにしましょう。

場所を試聴室に替えて先ずは300Bのバーンイン。明日の朝まで慣らしを行ってから時間をかけてじっくり比較試聴する予定です。第二報(試聴編)をどうぞお楽しみに!