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モノづくりは自分づくり…或るドキュメンタリー

4月は多くの皆さんがStayhome。勝手に「在宅応援月間」と決めて一旦開発業務を止めてサポート中心の一ヶ月だった訳ですが、計算上は十分足りるだった筈のSV-EQ1616Dが気がつけば4カ月半待ちという状況に。それだけ今年のゴールデンウィークは多くの方が外出する代わりにキット製作に勤しまれたということなんだろうと振り返る余裕もやっと出てきた今日この頃です。

そんな今日、Stereo誌6月号が届きました。特集は「巣ごもりオーディオ術」。こんな時だから家で出来ることを!という編集部のメッセージに多くの読者が共感を覚えることでしょう。この特集の中で”じっくりゆったり。キット三昧♪”という記事が掲載されています。

登場するのは今回初キット製作に挑戦したSさん(女性)です。
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撮影:Sさん / 掲載許可:Stereo編集部

経緯をお話しすると長くなります。元々は1年半ほど前のMUSIC BIRD収録に遡ります。その時のテーマは「敏腕女性ラジオディレクターが選ぶお気に入り真空管アンプはこれだ!」でした。経験も知識も全くない真空管アンプを何台も目の前に並べられて何が気に入ったか言ってみろ!という番組もどうかと思いますが(笑)、その時Sさんが選んだ二台はいずれも300Bアンプで、その違いを聴き分けるスゴ耳に驚いたことは記憶に新しいですが、一つのネタとして終わった話だと思っておりました。

正確な日にちは記憶しておりませんが、確か4月の初め頃、或るオーディオ評論家の先生から連絡があり”Sさんがアンプを組んでみたいと言ってるんですが何が良いだろう?”という問い合わせをいただきました。その熱意に驚いたものの、最初ということもあり再現性の高いプリント基板アンプを推薦。ベストセラーとして実績のあるTU-8200RsvTU-8800SVを推薦。一旦はそれで決まりかけたのですが、どうもSさんの反応がはっきりしない。

先生にきくと”どうやらSさんは収録の時に好印象だった300Bアンプに挑戦したい”…らしい。となればSV-S1616D/300B…オール手配線かあ、無理とは思わないけど未経験だと工具集めから始まって色々と大変だろうなあ…と逡巡していたところ何とSさんがStereo誌に製作レポートを寄稿することになったと伺って、いよいよ腹を括った次第。

いつもなら私が収録で上京するタイミングで横に張り付いて一つ一つの工程を説明しながらサポートも出来るのですが、時期が時期だけに収録もなければ出張そのものが自粛。ついにキット製作サポートもリモート時代に入ったか…という思いで期待半分、心配半分で製作が始まりました。

その過程はSさん自身が記事の中で書かれていますので是非読んで頂きたいのですが、リモートサポート隊以上にSさん自身が頑張った甲斐もあって幾つかの峠も何とか越えて組立てをご自身でコンプリートされたという連絡があったのが5月1日。私は”アンプを送ってくれれば此方で診ますよ”と申し上げたのですが、Sさんは”それでは記事の趣旨に反する”と固辞。じゃあ一緒に完成検査と測定をやるしかない!ということで、ネットで先生とSさんと私を繋いでZOOM飲み会ならぬ”ネット検査大会”をしたのが5/1のエントリー最初の写真なのです。

実はここでトラブル発生。真空管が挿入できないということで画像を送って頂いたら300Bソケットの片方が逆付け。ソケット周りの配線を全部やり直していただく間ずっと家で待っている時は、300数十キロの距離を全く忘れるほどの…まさに一緒に居る気持ちでした。

かくして深い時刻になってから緊張の火入れ式。その前に要所要所の配線チェックを一緒にやって活電部とグランドが短絡していないこと等の確認や電解コンデンサーの方向性の確認等を行って万一配線が間違っていても大事故にならないだろうところまで確認して三人とも息を止めるような緊迫感のなか電源ON。一秒,二秒,三秒…異臭なし発煙なし!よしOK!じゃあ間髪入れずに電圧を測りましょう…と言ってはみたものの内心は確率は五分五分と思っていました。

AC一次側電圧に始まってヒーター/フィラメント、B1~B3、カソードと進むにつれ、電圧が正常値で否応なしに期待が高まります。手に汗握るという言葉がありますが、まさにそんなひと時を共有しました。全ての電圧がOKという或る意味予想を超える結果に驚きながらも”恐らくアンプは大丈夫です。スピーカーをつないで音楽を鳴らしてみましょう”と申し上げ、目をつむるような気持ちで固唾をのんで待つ時間の長かったこと。

そして携帯のスピーカーから漏れ聴こえてきた音楽。思わず三人の口から”やったー!”という歓声と拍手が自然と出たのは言うまでもありません。Sさんが記事の末尾に書いている通り「モノづくりは自分づくり、モノづくりは自分との対話」の一週間でした。

このようなドキュメンタリーが全国津々浦々で数えきれないほど展開されてきたに違いない訳ですが、この爆発的な感動あればこそ20数年もキット販売という超地味な仕事を続けてこられたのであろうと思います。

”自分にもできるだろうか?”…そう思っておられる方は実際キットを買われる方の何倍,何十倍以上いらっしゃるに違いありません。まずはSさんのドキュメンタリーを読んで如何にモノづくりが私たちにとって根源的な歓びに直結する趣味であるかを感じて頂ければ幸いです。



by audiokaleidoscope | 2020-05-18 23:59 | オーディオ

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