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トランス出力プリアンプのヒミツ & 同タイトルCD vs LP一本勝負

昨日のゲスト参加に続き、今日は”大橋慎の真空管アンプ一本勝負”の二本録り。
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まず一本目は5/1(金)オンエアの「トランス出力プリアンプのヒミツ」。
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登場した三台のプリアンプ。左からSV-Pre1616D(松), SV-300LB, SV-310です。いずれもお馴染みのプリアンプですがSV-pre1616Dが一般的なコンデンサー出力であるのに対しSV-300LBとSV-310はトランス出力であることをご存じの方はかなりの通。

現行プリアンプで出力トランスを装備したものは稀です。もともとはWestern Electric時代のシアターアンプが全段トランス結合であったことにインスパイアされ、その電圧増幅段をプリアンプとして独立化してみたら良い物が出来るのではないかと思ったのがきっかけで開発を始めたのは15年以上前のことです。今日の一本目はトランス出力プリの魅力を実際音を聴いて頂いて皆さんと共有したいというテーマでした。

プリアンプが必要な理由はこちらに書いた通り、単に入力を切り替えたり音量(ゲイン)を調整したりするだけのものではありません。水が淀みなく高いところから低いところに流れる為に一定の傾斜と一定の水の通り道が必要なように、オーディオ機器にはインピーダンスからみた適切な機器の組合せが必要になります。詳細は別項に譲りますが、ごく簡単に言えば送り出し側の出力インピーダンスはなるべく低く、受け側の入力インピーダンスはなるべく高くする。これが信号伝送上きわめて重要で、その差は最低20倍以上必要とされています。

流しそうめんの樋の角度が低いと摩擦抵抗が高くなりそうめんの勢いが失われるのと同じで出力対入力の差分が低くなると、信号の流れによどみが生じ(=ケーブルに電流が流れ)、高域レスポンスが落ち音場に曇りが生じます。その劣化を最小限にするためにプリアンプが果たす役割は極めて大きなものです。事実いちどプリアンプを使って後から外すという方は殆んどいらっしゃらないのは、その差は音を聴けば誰の耳にも明らかだからです。

ではプリアンプのなかに何故出力トランスを搭載した機種があるのでしょうか。少々話がややこしくなりますが重要な事項ですのでお付き合い下さい。コンデンサー出力のプリアンプとトランス出力のプリアンプでは何が違うのでしょう。実は一般的に行われるオーディオ機器の測定法(入力信号が1kHzの正弦波)ではその差を読み解くことは出来ない(違いは現れない)のです。

しかし実際は私たちが聴く音楽はアナログ信号であれば数Hz~100kHz以上、CDであっても20Hz~22kHzの帯域におよび、且つ様々な信号が複雑に絡み合うように重畳して入力されています。ここで重要なのはコンデンサー出力のプリアンプは入力信号の周波数が下がると出力インピーダンスが急激に上昇します。入力周波数が数10Hzまで下がると出力インピーダンスはなんと数kHzにまで上がる場合もある(=低域方向でのドライブ力が劣化する)のです。

つまりコンデンサー出力のプリはカソードフォロワーという100%帰還回路によって見かけ上の出力インピーダンスを下げているのに対し、出力トランスを配置したプリアンプでは全帯域で出力インピーダンスが安定しパワーアンプに対するドライバビリティが格段に上昇するのが最大のメリットなのです。測定には現れない真のドライブ力があるとも言えましょう。

背反事項としてはトランスよる狭帯域化とリニアリティの劣化(ヒステリシス)ならびにコストアップが挙げられますが、現代のトランス技術を以てすれば帯域デメリットもリニアリティの劣化も無視できるほど小さく、インピーダンスが安定化するメリットの方が遥かに大きいといえます。事実SV-310の周波数特性は高域側-3dBで130kHz以上まで伸びています。

今日のオンエアを聴いて頂ければ分かりますが電気的にゲイン(@1kHz)を完全に一致させた環境でプリアンプの比較試聴を行うと聴感上は明らかにトランス付プリアンプの方が大きく聴こえます。これは一般的なオーディオ機器の測定法では分からないことですが、低域方向でのインピーダンスの安定化(ドライブ力の向上)により低域レスポンスが改善し、結果聴感上の音量が上がって聴こえるのです。カタログデータからは決して見えてこない真の機器の個性とポテンシャルを是非オンエアで体験頂きたいと思います。

続いて二本目は「CD vs LP同タイトル対決一本勝負」。これは群馬のMさんからのメールがきっかけでした。若かりし頃はLPでクラシックを楽しまれていたMさんですが、多くの同志がそうであるように40代,50代はオーディオどころではない生活を送っていたものの60歳になられて物心ともに少し余裕が出てきたので20年ぶりにオーディオショップへいったら・・・

「CDプレーヤーは絶滅危惧種でこれからはアナログの時代だと自分の倅ほどの若者が胸を張って言うではありませんか。LPがここまで復活して人気になったのはなぜなんでしょう?音が良い、ただそれだけだとはどうも思えないのです。プロの方はいまこのLPブームをどう思っていらっしゃるのか、少しでも良いのでお話を伺えればと思いメール致しました。」(原文ママ)

というのがきっかけ。今やサブスクの時代で音楽ソースは所有から消費の時代になりつつあるともいえる訳ですが、今回はデジタルソースに対してアナログは単なる回顧主義で復活している訳ではないことを20年ぶりにオーディオに戻ってこられたMさんにお伝えしたくて有名盤のCDとアナログを聴き較べてみようというテーマで進めました。

個人的にはCDにはCDの良さがあり、アナログにはアナログの良さがあって一概にどちらが良いとか優れているというものではない一方、LPイコール単なるレガシーメディアでは全くないこともお伝えしたいなと思いました。ヒラリーハーン, カラヤン/BPO, エヴァ・キャシディ, アートペッパー, ジェニファー・ウォーンズ, リッキーリー・ジョーンズ…どれも名盤の誉れ高いものですが、どれもそれぞれの味わいがあってとても楽しい1時間になりました。旧譜だけなくなく新譜がCDと共にLPでリリースされる時代、まさにLP復活が現実のものとして起こっているのです。

とかくハードよりに傾きがちな”真空管アンプ一本勝負”ですが、今回はMさんのお陰で音楽を聴く歓びに満ちた収録になりました。来月の収録は二本連続企画でクラシックSP盤スペシャルを予定しています。真空管一本勝負はますます盛り上がりそうです!


by audiokaleidoscope | 2020-02-27 23:59 | オーディオ

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