おそらく今年最後の東京出張はMUSIC BIRD収録。テーマは「SV-EQ1616D(フォノイコライザー)一本勝負!part3」で、前編(2/21 OA)は”増幅段&カソフォロ段真空管をアップグレード”、後編(3/6 OA)は”整流管とカップリングコンデンサーをアップグレード”というテーマ。
これまではEQ1616Dの最大の特徴である
マルチカーブ対応という機能面にフォーカスしてきた訳ですが、今回はRIAAカーブに固定して基本的音質に迫ろうという訳です。

進め方ですがSV-Pre1616Dで好評だった松/竹/梅セットを組んで比較するという趣向です。
前編では
1.増幅段真空管(V1/V2)アップグレード
①梅セット(標準 JJ ECC83)
②竹セット(Gold Lion ECC83)
③松セットその1(Mullard M8137/CV4004)

④松セットその2(Telefunken ECC83 ♢マーク)

フォノイコライザーはオーディオ増幅系で最大の利得(ゲイン)をもつだけに小さな差異が大きな変化として現れます。EQ1616DではMCポジションで約62dBのゲインを有していますので利得は実に1000倍以上。真空管やパーツの僅かなキャラクターの違いが大きな音質の差異として感じられるという訳です。
一本1,500円のJJと数万円のMullardやTelefunkenの価格差=何十倍の音質差とは申しません。しかしながらMullardやTelefunkenは聴感上のダイナミックレンジが広く空気感が豊かで一頭地抜けた存在であることは認めざるを得ません。ヴィンテージを”時間を経てなお価値を失わないばかりか益々その魅力と存在価値を高めている数少ない存在”と定義するに相応しい音質をオンエアで是非ご確認ください。
MUSIC BIRDの加入はたいへん容易でその満足度はプライスレスです。
続いては
2.カソードフォロワー段真空管の交換(V3)アップグレード
①梅セット(標準JJ ECC83)
②竹セット(Gold Lion ECC82)
③松セット(Mullard M8136/CV4003 )

カソードフォロワー段(通称カソフォロ)はインピーダンスを下げ信号を出力する音質的に極めて重要な部位でEQ1616DはV3が無調整で12AX7~12AU7が差替え可能(V1/V2は12AX7専用)です。μ(増幅率)が全く異なる12AX7と12AU7を挿し替えてもオールオーバーのゲインも出力インピーダンスも大きく変わらないことを不思議に思われる上級者もおられるかもしれませんね。
ここでも比較を明示的にするために一旦全ての真空管を梅(JJ)に戻してからカソフォロ段だけを替えていった訳ですが、大きな発見であったのが増幅段(V1/V2)以上にカソフォロ段(V3)による音の変化量が大きかったこと。これは実に意外でありました。実際V1/V2は梅(JJ)でV3のみ松(Mullard)にしただけで素晴らしいバランスの音が出たのです。
Mullard CV4003は私どもでは現在一本14,000円。10年で倍の価格になると言われているヴィンテージ真空管の中にあって特に人気が高く安いものではありませんが、EQ1616Dの導入を予定されている方はV3だけでも是非CV4003にアップグレードいただくことを強くお奨めします。
続いて収録二本目(後編)はスペシャルゲストをお迎えしました。MUSIC BIRDでお馴染みのシンガー井筒香奈江さんです。
内容は
3.整流段のアップグレード
①梅セット(標準ダイオードモジュール)
②竹セット(SOVTEK 5AR4)

③松セット(PSVANE WE274B)

④参考出品(Western Electric 274B刻印/1940年代前半)

を聴いた訳ですが、レギュレーション的には劣っている整流管、とりわけ管内降下電圧の大きい直熱整流管に替えた時の音のニュアンスの豊かさは特筆に値するものでした。井筒さんが感想のなかで”整流管を替えていくことで、どんどん声が優しくなっているように感じる”と仰っていましたが、井筒さんの声の抑揚感までも変化しているように聴こえます。
EQ1616Dは5V/3Aの整流管ヒーター巻線を持ち、コンデンサーインプット容量が10uFですので5AR4,274B系のほか5R4系,5U4系,GZ37なども問題なくお使い頂けます。個人的には本家ウエスタンは別格としてPSVANE WE274Bが大変良かったですが一本3,000円のSOVTEK 5AR4でも確実に真空管アンプならではの方向性に変わってくれるのでお奨めです。
続いては
4.カップリングコンデンサー(2.2uF/250V以上)の交換
①梅セット(標準フィルムコン)
②竹セット(Solen:フランス)
③松セット(ASC X335)

上図 左下の黄色破線内がカップリングコンデンサーで信号に重畳している直流分を漉し取って交流分(音楽信号)のみを後続機器(プリアンプまたはプリメインアンプ)に送り出す音質的に非常に重要な部分です。この緑色のフィルムコンが標準仕様です。

上の画像をよく見ると分かりますがスタジオでハンダ付けをしている余裕はありませんので、事前にミノムシクリップでカップリングコンデンサーを摘む仕様に改造しておいて容易にリプレイス出来るようにしています。
ここでは事前の予想通りASC X335がダントツのパフォーマンスを示しました。

Pre1616DでもASCを導入された方が全体の50%以上を占めましたが、EQ1616Dでも同様(あるいはそれ以上)の改善効果があり、情報量とシャープネスが上がりながら同時に空気感やニュアンスも高まるという或る意味で二律背反的な効果が認められました。

最後に今回の最強バージョンでしめくくり。カソフォロ段=CV4003, 整流管 WE274B, カップリング ASCの組合せ。あたかもレコーディング時にエンジニアがマイクを選んだりセッティングを工夫しながら理想の音を目指すように、私たちは居ながらにして自分の装置の真空管を替えることで音楽やアーティストに一層寄り添えるというのは真空管アンプならではの魅力かもしれません。
井筒さんが最後に、真空管一本、パーツ一個でこれだけ音が変わるということに改めて驚いたというようなことを仰っていましたが、プリやパワー以上に敏感なフォノイコライザーの奥深さを改めて感じた…そんな今日の収録でした。