この週末は予想外に充実した(タイヘンな)二日間となりました。きっかけは旧知のお客さんからの電話。「知り合いで真空管のキットを買って困っている人がいるんだけどちょっと助けてあげてもらえないだろうか」という内容でした。
この手のお話は時々あるのですが電気的にも機構的にも設計に関わっていない者がお手伝いできるのは一般的な事項に限ることをお伝えし、それでも良ければ…と申し上げると程なくご本人から電話。海外製の真空管アンプキットを買ったのはいいけど全く手が出ない…とのこと。電話では埒が開かないので現物を持ってきていただいて改めてご相談に乗らせて頂くことにしました。

これが現物。中国製のオール手配線キットです。当初の私のイメージはキットを組んではみたものの何らかの問題があって、その箇所の抽出と対策で2~3時間の作業イメージだったのですが、現物はまっさらの新品(未組立)で且つ資料も整備されていない状態です。
ご相談の主はハンダづけ経験はあるものの電気知識は皆無でアンプ製作も初めて。セオリー的には先ず基板アンプで慣れてから手配線アンプという順序ですが、ネットで海外のサイトを見ていて値段に思わずポチっとしてしまったものの、現物が届いたところ上の写真に写っている回路図一枚が添付されているだけで実体配線図はおろかパーツリストも無い状態に完全にお手上げということでした。多少なりとも経験がないとサルガッソー(身動きできない状態)になることは容易に想像できます。口で説明してお帰りいただいても何も進まないことは明確だったので、覚悟を決めて”一緒に組み立てましょう”ということになりました。最低でも1.5日はかかるでしょう。
現物をみて私が一番問題だと思ったのは電源トランスの引き出し線の色説明すらどこにも無いこと。電源トランスには一次側(入力)と二次側(初段,出力段,整流段ヒーター巻線, B巻線 等)で構成されており入力に電圧を印加することで二次側に数V~数百Vが発生します。通常はトランスに印刷されているか巻線仕様書が添付されているのですが、キットの回路図にもトランス現物にも全く情報がありません。製品を購入した際のWEBサイトは残っていましたが購入後何年も経っているので写真が現物が細部で異なっており、アマチュアの方はこの時点で万事休すという感じです。
腕を組んで天井を見上げていても何も進まないのでトランス単独で入力電圧を印加して二次側に出る電圧を記録してみたのが下のメモです。一次側110Vが2巻線あるのはシリーズ接続で220V(欧州仕様)に出来るからでしょう。

実際の配線にかかっていくわけですが、単に作業をするだけでは次につながらないので実際に自分で手を動かして頂きながら配線部分をマーカーで消し込んでいくことで自分がいま何をやっているか理解していただくことを最優先に考えました。「最初からベストを狙っても無理。ベターを目指しましょう」と目標を決め、一工程づつ間違いなく進めていくことを優先します。

抵抗値はすべてテスターで実測。同じ抵抗値でも流れる電流によって抵抗のワッテージ(大きさ)も変わってくるので場所を間違わないように注意します。通常手配線キットはシャーシ内にラグ板を適宜配しパーツ実装の容易化を図るものですが、このキットはアース母線方式でパーツにラグは含まれていませんでしたので難易度を下げるために手持ちのラグ板を追加することしました。コンデンサーが一部欠品。抵抗も欠品と余剰があったので手持ちで対応します。
午後から始めて26時に一旦終了。翌日9時から作業開始して完成したのは22時過ぎでした。

シールド線の端末処理やアース母線やスピーカーターミナルなど放熱によってハンダが溶けにくい部位の作業はかなり苦労されていて最初はどうなることか…と思いましたが段々と慣れてきて最後の頃には勘コツを掴んでワイヤリングもきれいに出来るようになりました。配線忘れがないか確認し、私が電圧を測って問題ないことを確認し思わず二人でハイタッチ。まさに寝食を二の次にして頑張った週末でした。


こうしてみると経験が浅い方にとって組立マニュアルがいかに大切であるか改めて骨身に沁みた訳で、キットをお求めになる場合はマニュアルがどの程度整備されているかをしっかり確認して購入頂くことをお奨めします。ちなみにこのキットのサンバレー版は
SV-S1616D/多極管仕様になりますが、マニュアルは全33ページのA3フルカラー実体図つき。お初の方でも完成頂けるように頑張って編集しましたので安心してトライ頂ければと思います。
詳細は
SV-S1616D_多極管仕様の製作(その1)SV-S1616D_多極管仕様の製作(その2)SV-S1616D_多極管仕様の製作(その3)SV-S1616D/KT150→300Bコンバージョンをご覧ください。
今回は簡単な地図一枚渡されて”さあトレジャーハンティング(宝探し)に行ってこい!”という感じのスタートでしたが無事完成の感動を味わって頂けて良かったです。たまにはこういう他流試合も良いものですね!