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音のヘソ

しばらく間が空いてしまいました。最近は遠方からの試聴の方がいらっしゃることが多く先週は北海道,今週は東京,福岡と各所からオーディオファンの皆さんが訪ねて下さって日々忙しくも楽しい毎日です。

昨日は京都のAさんがお友達のTさんと一緒にいらっしゃいました。Aさんとは以前からお付き合いがあり、私も数か月前にお邪魔してJBL4365のチューニングのお手伝いをさせて頂いたことがありますが、先日の真空管オーディオフェアで4344の音を聴いて衝撃を受けられ再度のご来訪となりました。アンプはAさんと同じSV-2PP(2009)で鳴らします。
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この音は或る意味で非日常的。地響きを伴って風圧を感じるような低域と刃物のように切り込んでくる高域はこの時代のJBLでしか味わえない世界です。しかしながらその音を形成する肝がミッドバスのレベリングにあることはあまり知られておらず、単なるドンシャリか低域が被って中高域の明晰さをスポイルしているかのいずれかである場合が多いのです。

この世代のJBLはウーハーの受け持ち帯域が狭く4344の場合ネットワーク仕様で320Hz,バイアンプ(マルチ)仕様で290Hzです。つまり4344は2307(コンプレッションドライバー)+2122H(25㎝ダイレクトラジエーター)で構成される2wayを2405(スーパーツィーター)と2235H(ウーハー)で帯域伸長させたものと考えると分かりやすいでしょう。

その後JBLのラージモニターは位相整合を重視するようになり4wayから2~3wayに形式が変化します。それに伴いウーハーの受け持ち帯域が広がり一世を風靡したK2 S9500で650Hz(2way),S9900で900Hz(3way)にまで変化しました。これ自体に問題ないのですが、実はAさんの4365の世代は750Hz(3way)となっており、これがチューニングを大変難しくしています。

仮に私たちの耳の可聴帯域が20Hz~20kHzと仮定します。下限から5オクターブ上が640Hz,上限から5オクターブ下が625Hzですから、ちょうどこの辺りが”音のやじろべえの支点(中点)”であることが分かります。オケのチューニングは440Hz,アンプの測定は1kHzがデフォルトですが、音のヘソは650Hz付近にあるということですね。

このヘソ付近にクロスオーバー周波数があった4365の世代は無響室ならともかく、何らかの癖を持っている我々の生活空間ではフラットレスポンスが得難く(エネルギー合成が理屈通りにいかず)、結果”上を上げればキンキン、下を上げればモコモコ”のバランスになりがちという難しさが潜んでいます。アンプを替えたりケーブルを替えたりしても結局良い音で鳴らなかったと諦めてしまうパターンも少なくありません。

Aさんの4365はかなり追い込まれているものの、やはり4344と比べるとチューニングの自由度が低いことは否定できず、変に低域/中高域のバランスを弄るよりは低域を少し出し気味にしておいてスーパーツィーターを加えて4ウェイ化して低域を締めた方が良いバランスで鳴るでしょう。Aさんも4344の音を聴いて4365のバランスの取り直しを決意されたようですので、近々再びお邪魔して何らかのお手伝いが出来ればと考えています。

午後からは第二に移動して同じ15インチシステムでありながら4344とは世界観そのものが異なるタンノイの世界をAさんとTさんに体験頂きました。アンプは86A(300Bpp)です。
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4344とオートグラフの差を言葉で表すのは容易いことではありませんが、敢えてひと言で言えば”音像(直接音)の4344, 音場(間接音)のオートグラフ”ということになるでしょうか。どちらが優れているとか劣っているとかいう概念ではなく音楽の描き出し方が全く異なります。Aさんからは「4344のストレートに飛び込んでくる音、オートグラフのホールのような音場感と全く音の違う完璧に調整された音を聴かせていただき、時間が過ぎるのも忘れ感激しました」という嬉しいメールをいただきました。

同じ音楽を聴いてもこの2つのシステムから受ける音楽の印象は大きく異なります。「雑華厳浄(ざっけごんじょう)」という言葉がありますが、音になぞらえて言えば”多様な音、多様な感じ方があるなかで、それぞれがかけがえのない価値を持ち、それぞれの魅力を引き出し合っている”というような意味になるのかな、と感じます。ひと言でいえば”それぞれに華あり”ということになるでしょうか。

オーディオマニアに潜むトラップとして自身が経験を積み嗜好が明確になるにつれ、知らず知らずのうちに自分の好み以外の物は認めず否定する傾向があるように感じます。オーディオは音楽の素晴らしさを追体験する手段であり目的ではない訳ですから、私ども含め経験ある者こそ清濁併せ呑んで”これもいいよね、でもあれも素晴らしい”とそれぞれの魅力を引き出し伝えていく責任があります。

私どももオーディオ業界の片隅に身を置くものとして、皆さん一人ひとりの華、機器それぞれの魅力を開花させるお手伝いが出来たら嬉しいなと感じている今日このごろです。





by audiokaleidoscope | 2019-11-13 23:59 | オーディオ

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