現在、業界で最も乗りにノッている音楽之友社”Stereo誌”から近日発売の別冊(ONTOMO Mook)”
電波を受信せよ! 真空管FMチューナー”。このブログの読者さんのなかにも興味津々という方も多いことでしょう。
私も元BCL&アマチュア無線少年ですから無類のラジオ好き。過去二作のStereo誌真空管シリーズは静観してきましたが、数か月前に関係者から”次は真空管チューナーをやります!”と伺った日からずっと楽しみにしていたのです。昨日編集部から”できたてホヤホヤの第一号を製本所からとってきましたので送ります”と連絡があり、今日現物を作り試聴させて頂く機会に恵まれましたので早速レポートしたいと思います。
1. 製作~誰でも完成できる半完成キット~
これが現物。あと一週間足らずで皆さんのお手元にもお届けできる予定です。楽しみですね!

製作ガイド部は
・真空管FMチューナー・キットを組み立てる
・真空管FMチューナーを改造
①真空管を交換して音の違いを楽しむ
②アンテナを強化して、しっかり電波をキャッチ
③ヴィンテージラジオ風にデコレーション
④カップリングコンデンサを交換して聴き易い音に
・FM放送/チューナーを知る
・アンプは真空管式、トランジスタ式どちらにすべきかで構成されていて組立マニュアルを超えた発展性のある内容になっています。早速製作ガイドを見ながら製作に入る訳ですが必要工具はプラスドライバー(#2)とラジオペンチのみということで誰でも30分かからずに組立が出来る内容です。

基板表。クラフトファン的にはこの部分は自分でハンダづけしたいところですが、本キットでは基板は組立済です。ラジオとはいえバーアンテナもバリコンも見当たらないのが今風です。

これが裏面。写真中央上部についているチップが本キットの心臓部です。回路図は公開されていませんしハヅキルーペを見ても型番が読めない小さなチップですが、恐らく
シリコンラボのSi4831ではないかと思います。要はこの基板をシャーシ部に組み込んで(ビス止め)できれば完成と言うシンプルな内容です。

この写真はネジ止めしているところですが、通常のネジとちょっと勝手が違いますので要注意です。このネジは”タッピング”と呼ばれるものでネジを締めこむことで自らシャーシに溝を切っていくタイプのもの。昔このタイプのネジを”鉄板ビス”なんて言ったものです。簡単に言えばネジ込む時にかなり力が必要なのです。
上の写真くらいのしっかりしたプラスドライバーでグリップ部が太めでないとネジが回ってくれずに悪戦苦闘という場合も十分あり得ます。これさえクリア出来れば、その他はまったく問題はありません。

これはチューニング用のボリュームの軸をフロントパネルに固定しているところ。製作ガイドではラジオペンチの使用が指示されていますが、真空管アンプキットを作ったことがある方ならボックスドライバーをお持ちの筈。その場合は迷わずボックスドライバーでしっかり固定します。

あとは真空管(12AU7)を挿してツマミ類をつけて完成。チープな感じは全くありません。

病床にあった西太后(1835~1908)が清朝最後の皇帝になろうとしている愛新覚羅溥儀(当時三歳)をみて”おお!なんと小さい”と言ったという逸話が思い起こされるほどのミニサイズ。アナログチューナーではあり得ないDSPチューナーならではのパッケージングといえましょう。12AU7がLEDでライトアップされて存在感を際立たせています。
2. 試聴~ポイントはアンテナ~さっそく聴いてみます。皆さんの興味はこのチューナーがオーディオグレードとして本当に使えるクオリティなのか?…ということだろうと想像します。結論的にはアンテナ次第。受信感度さえ確保できれば全く問題ないことが確認出来ましたので安心して下さい。
一方でキット付属のアンテナ線では私の環境で満足に受信できませんでした。当地は名古屋から直線で約30kmくらいの位置。ラジカセなどでFMを聴く時はロッドアンテナを伸ばせば問題なく受信できるロケではありますが、本キットの付属アンテナ線では感度不足です。説明書にも付属アンテナ設置上の注意や屋外用FMアンテナや部屋にFMの乗ったアンテナコンセントがある場合はそちらを推奨する旨が詳細に書かれています。当方ではケーブルTVの受信波に乗っているFM波も受信できますし、リスニングルームの屋根にはFM専用の八木アンテナが上がっていますので、事前に変換アダプターを入手し全く問題なく極めて快適に受信できました。これは音質以前の問題ですので是非事前にクリアしてクリアしておきたいですね。

この状態で受信すると雑味のないクリアな音質を心ゆくまで楽しめます。皆さんのメインシステムに入れても全く違和感のないクオリティです。ひと通り聴いたあとに常用のアナログチューナーと比較してみることにしました。

TRIO KT-9700(1976年頃)

いずれも音質的に評価の高いアナログチューナーの名機です。同じアンテナ線から信号を供給し、それぞれのチューナーの出力をプリアンプの入力に別々に入れて瞬時に切替えられる環境を作って比較します。
バリコンアナログチューナーの最大の魅力は滑らかな音質ということに尽きます。FMを聴くとNHKの音量が少し小さく聴こえる経験をされた方が多いと思いますが、それは裏返せば民放各局が送出時にかなりコンプをかけて小音量時のレベルを持ち上げる代わりにピークを潰している証左である訳です。いわゆる高級チューナーはそのデメリット(聴感上の音の粗さ)をうまく回避できています。比較のポイントはLXV-OT8がDSP方式でこの点においてどれだけバリコンアナログチューナーに迫れているかという点でした。
プリアンプのリモコンで切替えながら聴き較べてみた訳ですが、結論的には大健闘でDSP方式によくみられる高域の粉っぽさ(滑らかさに欠ける質感)が感じられないのは12AU7真空管バッファ段が大きく寄与していると言えると思います。感度的にはKT-9700と同等、QUAD FM3よりも若干優れています。DSP方式ならでは個性として選曲ポイント調整がクリテイカル(受信ポイントがアナログに対して狭い)ことが最初は気になるかもしれませんが、慣れれば何ということはありません。
3. グレードアップ~タマを替えてみる~良い音聴けてひと安心。となると自然に”もっと良い音を!”ってなるのがオーディオ好きの性(さが)というか業(ごう)。製作ガイドにはアンテナの強化,真空管の交換,カップリングコンデンサーの交換が挙げられていますが、回路的にも内容的にもカップリングを高級化することのメリットよりもバッファ段の12AU7を替えた方が遥かに効果が大きいと判断し手許にあった
Mullard CV4003に替えてみることにしました。

左がキット標準の12AU7。曙光電子製かと思いましたが現行ロットのGolden Dragonとは構造が若干違いますので旧ロットのデッドストックかサードパーティの真空管の可能性もあります。右はご存じMullard CV4003です。

基板上のソケットの向きが1番ピンが後ろ側なので残念ながらMullardの紋所は見えませんが(笑)、音はさすがム印!高域~中域の質感が大幅に改善します。15,000円のムックの付録に14,000円のCV4003を奢ることが適切かどうかは読者の皆さんに委ねたいと思いますが、その効果を体感できる品質のチューナーであることも確認できました。
今回の付録として果敢にFMチューナーに挑戦された編集部、そして見事なパッケージングを実現されたLUXMAN関係者に心よりの賛辞を送ります。このキットが一人でも多くのオーディオファンのお手許で愛用されることを願わざるを得ません。
※本ポストの画像,内容は音楽之友社Srereo編集部のご厚意により発売前に掲載の許可をいただきました。この場をお借りし御礼申し上げます。