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真空管の劣化(エミ減)

今日は或るトラブルの事例紹介です。最近10数年前にキットでお求め頂いたKT88シングルアンプが要メインテナンスということでドックインしてきました。
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プリメインタイプの固定バイアスアンプです。本を読んで下さった方はお分かりですが、真空管アンプには”自己バイアス”(セルフバイアス)と”固定バイアス”(フィクストバイアス)の二つがあり、前者は出力管の無調整差替えが可能、後者は差替えごとにバイアス値(プレート電流)の調整が必要となります。当社で言えばSV-S1616DやSV-P1616Dは自己バイアスですがSV-8800SEは固定バイアスです。

ここ数年「球転がし」と言われる真空管の差し替えが一般化するなかで、ご自身のアンプが自己バイアスなのか固定バイアスなのかも分からずに差替えをしてアンプが壊れる不幸な事例も散見されますのでご注意頂きたいと思います。

話は戻って上のアンプ。組立から10年以上経っている訳ですが調子が悪いということで配線チェックをしたところ全く問題ありません。ハンダづけも実に丁寧に行われており、配線の引き回しも冗長にならず合理的で技術力のある方が作られたことが分かります。機構部品の固定も確実で申し分ない造りです。

となれば真空管か…ということで同送頂いた真空管を元の位置に挿入し電源ON。各部の電圧とバイアス調整値の確認です。通電前の目視チェックではすべての真空管のゲッターが残っており、通電するとヒーターが点灯しますがバイアスが調整出来ません。正確に言えばバイアス調整用のトリマーを回してもバイアス電圧(=プレート電流)が上がったり下がったりしない状態です。これが実は真空管の”エミ減”と言われるトラブルなのです。

エミ減の”エミ”は”エミッション”つまりは真空管内での熱電子の放出を指す言葉です。「真空管・オーディオ活用の奥義」PART2-1”真空管アンプの使いこなし”の中でも「真空管はカソードあるいはフィラメントから熱電子を放出しているわけで、その電子量の総和は有限です。数千時間単位のオーダーではありますが、寿命があるということは確かであり…」と記述していますが、その有限である熱電子が枯渇して電流が流れなくなっている状態を”エミ減”と呼んでいる訳です。

ではこれをデータで実証してみたいと思います。
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KT88で最も人気のあるGold Lion KT88(新品)です。これを使いお預かりしたアンプでバイアス調整を行ってみると…
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バッチリこのアンプの指定値である0.6V(=プレート電流60mA)に調整できます。やはりアンプ本体には問題ないことが確認出来ました。各部の電圧も全て正常です。つまり今回のアンプ不調の原因は本体でなくKT88であることがほぼ間違いないという状況です。
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これが元々このアンプで使われていたKT88。10年以上の時間の経過を感じさせる外観ではありますが、真空管の健康度を一番簡便に推し量る目印ともいえる”ゲッター”(上の球でいえば管頂部の鏡のように光った部分)は十分残っています。少なくとも外見上でこの球をNGとする材料はありません。しかし…

Gold Lion KT88で調整したトリマー位置をそのままでこの球に差し替えてみました。球が健康であれば同じくらいの電圧が検出されても良い筈です。ところが…
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テスターの値をよく見て下さい。単位がmVであることに要注目です。つまりGold Lion KT88で0.6Vだったのに球を替えたら0.06Vまで電圧が下がってしまった…言い換えれば規定プレート電流60mAに対してこのKT88は6.3mAしか流れない球であるということが分かります。

例えて言えば車のタイヤの空気圧が200kPaであるべきところ20kPaしかなかったらどうなるでしょう…もちろん車はまともに走ることが出来ません。つまり今回のトラブルは見たところ大丈夫そうに見えたタイヤがスローパンクチャーを起こしてペコペコの状態になっていた状態、と考えて頂くと分かりやすいかもしれません。しかし”見たところ大丈夫そう”というのが厄介ですね。

ここまで読むと皆さんは自分のアンプは大丈夫だろうか…と心配になるかもしれません。固定バイアスのアンプをお使いであればメーカー指定値から大きな乖離がないか調べればわかりますし、自己バイアスアンプでは多極管アンプの場合は出力管8番ピンの電圧、直熱三極管であればフィラメントの中点電圧(いずれも対アース)を測れば球が健康かどうか容易に確認できる筈です(詳細は必ずメーカーにご確認下さい)。

エミ減は時間の経過とともに大なり小なり必ず起こります。今回の場合は仮に10年として一日2時間、毎日通電したとして7,000時間強…アンプの設計にもよりますが出力管の寿命=5,000時間~10,000時間とすれば、よく頑張った!と言えるのではないでしょうか。注意が必要なのは今回のような極端な例は別としてエミ減状態でも音は出てしまうところ。”最近なんだか音が小さくなったな”とか”大きな音を出すと歪っぽく聴こえるなんだけど…”という場合はエミ減のサインかもしれません。

今回は年に一度くらいはタイヤの空気圧とバイアス電圧の確認が必要、というお話でした。ぜひご確認を!




by audiokaleidoscope | 2019-09-04 17:40 | オーディオ

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