ショールームの4344のウーハー(
2235H)の張り替えが終わり、気がつけばネットワークも含めフルオーバーホールに近い状態。ここまで来るのに2ヶ月半かかりましたが新品同様のコンディションになりました。
45Hz~55Hzあたりで微かな異音を検出したため2本ともオーバーホール。
オリジナル温存主義でエッジはウレタンを選択しました。最初期の4344ですので製造されて35年以上経っているとは思えない状態に復活。昨今は”カスタマイズ”と称してオリジナル性を無視した改造が一般化していますが、「ヴィンテージ」本来の価値を考えた時、個人的には”元々あった姿で次の時代にバトンを渡す”ことも一つの良識だと考えます。元の状態に戻せない”不可逆改造”はなるべく避けたいのです。
何を以て”良い音”と為すかは非常に難しい問題ですが、JBL伝統の15インチサウンドを継承しながらも、いわゆる4344的ドンシャリサウンドとは隔絶した音の世界を楽しんで頂けるレベルに仕上がっています。エンクロージャーのセッティングについては鋳鉄スタンド,ウッドブロックとも良い結果が出なかったため、前面を2インチ程度浮かせてスラントさせるセッティングを久々に試してみました。これはいまから15年近く前にショールームに入れたタンノイStirlingがどうも良い音で鳴らず四苦八苦して散々試した結果、偶然に発見したセッティング法です。
結果的にこれが正解で不要共振が激減するだけでなく聴感上の位相特性が目覚ましく改善しています。上の写真を見て頂くと分かりますがフロントバッフルが数度傾斜しているのを確認頂けると思います。スピーカーはそもそもフロントヘビーですので、メカニカルグラウンディング(振動を重心の直下一点で落とす方法)的にも合理性があります。この4344は真空管オーディオフェア会場にも持っていきますので、当日はオーディオ華やかなりし頃を思い出しながら真空管アンプとのマリアージュを大いに楽しんで頂きたいと思っています。
そんなことをして色々と弄っていると本日の道場やぶりの刺客が登場。CLUB SUNVALLEYに登場して数日であるにも関わらず既に1000人以上の方が来訪した
duva123さんの記事に登場する”Add Horn"(追加延長ホーン:duvaさんのオリジナル)の効果の素晴らしさを
新作(10㎝バージョン)で追体験させて頂けることになっていたのです。
バックロードホーンの開口部を延長するという斬新なアイディア。これを従来のバックロードでやろうと思うと恐らく二回りくらいエンクロージャーサイズが大きくならざるを得ないと思いますがduvaさんはこれをAdd Horn方式でクリア。更に言えば旧いユニットを再生させて使っておられるところ、極めて容易に入手でき再現性の高い板材でこれを実現していらっしゃるところに大いなるシンパシーを覚えた次第です。
音は全く外連(けれん)のない、言い換えれば妙にバックロードっぽい味付け(癖)を感じさせない非常にニュートラルで見事なもの。教会録音のパイプオルガンのレゾナンスもオンマイクで録られたヴォーカルのリップノイズも色付けなく再生する正確さも持っています。2003~2004年頃”ものづくりコンテスト”というタイトルで自作スピーカーコンテストを東京でやっていたことがありますが、その頃の興奮が蘇ってくるようなひと時でした。
前にも書きましたが1990年代に入ってスピーカーの物理特性を重視する気運が高まりました。エンクロージャーの振動を抑える、ネットワークを複雑にしてユニット間の位相差を極力なくす…余分な何かを除くことによって現れる(と考えられた)ピュアさと引き換えに音の躍動感や鮮度感を得ることがどんどん難しくなり、アンプは小型金庫のように大型化の一途をたどりました。これがいわゆる”ハイエンドオーディオ”という言葉が生まれる一つのきっかけだったと思います。
あれから約30年、まだまだ草の根的ではありますが”ハイエンド前”への回帰が少しづつ、確実に起こっていることを感じます。例えばこのスピーカー、
AERというブランドのフルレンジシステムですがナンと能率116dB/w/m!!
見た目は近未来的ですが発想的にはWestern Electric時代の超高能率ホーンシステムをオマージュしたものといえるでしょう。コンプレッションドライバーがダイレクトラジエーター(コーンユニット)に置き換わってはいますが、こういう温故知新的オーディオが現在グローバルに復権を果たしつつあるのは我々にとっては歓迎すべきこと。アンプの出力は2Wもあれば御の字です。
電気拡声技術が発明されて100年余…エジソン効果発見は1883年、Western Electricが三極管の製造に着手したのが1906年と言われています。その後日本でも製造が始まり1960年~70年頃は年間2億本の製造量に達しました。しかしその後急激に時代は半導体に舵を切り1979年日本国内における真空管製造は完全に終了。そして82年にCDプレーヤーが発売されてデジタルの時代になりました。
オーディオに限らず物事や人の考えは周期的に循環していると言えます。気がつけばLPの復権に留まらないアナログデバイスへの再注目が顕著です。特性や合理性と引き換えに捨てられてしまった何かに対する気づき…今さら何が4344だバックロードの自作だと笑われるかもしれません。しかしこんな時代だからこそ立ち止まって振り返ってみなければならない何かもあるように感じるのです。