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日帰り関西巡業(その2 京都編)

大阪を出て向かったのは京都。Aさん宅に伺い音を聴かせて頂きました。
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スピーカーはJBL4365。「70年初めに登場して以来、長年に渡り録音スタジオなどのプロフェッショナルの現場で高い信頼を獲得しJBLを象徴するスピーカーとして愛され続けているスタジオモニター。4365は15インチウーファー搭載のJBL永遠のスタンダード」と言われる通り最もJBLらしいJBLの一つです。

しかしこの4365、実際鳴らしてみるとなかなか手懐けるのが難しい事でも知られています。ハイパワー,オーバーダンピングなアンプで鳴らすとローが締まり過ぎて聴感上ハイ上がりのバランスになってしまい、知らず知らずのうちにミッド(コンプレッションドライバー+ホーンの帯域)を絞ってJBL王道のホーンサウンドとは似ても似つかない音になってしまったり、ドライブ力のないアンプで鳴らすと逆にローがダブダブになって中域にカブってスピード感が出なかったり…多くのユーザーが低域と高域の”あちらを立てればこちらが立たず”に悪戦苦闘するスピーカーの代表格の一つです。

加えて15インチウーハー+バスレフという形式からくるルームアコースティックとの折り合いのつけ方の難しさ。言い換えれば部屋の定在波の影響を最も受けやすくセッティングがシビアなのもこのタイプ。結局うまく鳴らせずに小音量でギスギス,大音量でモワモワ…を辛抱している方も少なくありません。

真空管アンプでJBL43系を鳴らすという場合、4343/4344などの4ウェイであれば多極管プッシュプルを持ってくるというのがセオリーというか常道。ウーハー基準でなくミッドバス基準で音のバランスを作っていくと上手くいくことが多い訳ですが、締まり重視であればKT120,量感重視であればKT150辺りが一番良い結果になるでしょう。例えば4343BのHさんの事例などは最も成功しているケースだと言えます。

対して現行の3ウェイはどうするか…ミッドバスがないこの形式はウーハー基準で中域,高域を積み上げるように足して如何に各帯域のスピード感を揃えつつピラミッドバランスを作り上げるか…ここがキモ。そこで出てくるのが845アンプです。適度に低域を制動しつつ中高域の鮮度と輝きを活かす為の最適な選択が845と言えるでしょう。
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これは2011年にフルセットで納入した4365のケースです。この時は小音量でも浸透力のある音を、というリクエストでしたので845シングル(SV-2_2007)を中心にセットアップしました。現在で言えばSV-S1628Dがそのキャラクターを連綿と受け継いでいます。

対してエネルギー感と厚み、そして全帯域のスピードと位相がぴったり揃った俊敏さ…小音量から咆哮するような爆音でも音の重心位置が動かないことを重視という場合は845プッシュプルの独壇場となります。Aさんのセットアップはまさにこの方向性のチューニングといえましょう。
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SV-2PP(2009)

フォノがSV-310EQ,プリがSV-310という布陣ですので、ベクトルとして中低域の密度感と音の濃さで聴く組合せ。現行で言えばSV-284Dモノ×2が最も近い存在になりますが、284Dはプッシュプルでなくバランスドシングル(≒パラシングル)になりますので音調としてはキレ重視になります。

最初Aさん宅で聴かせて頂いた音は雄大な低域の上に刺激感のない中高域が重なる傾向でありますが、若干ミッドを絞り過ぎでホーンらしさが僅かにスポイルされている傾向でした。実は多くのJBL3~4ウェイ15インチスピーカーの多くが同様のバランスで鳴らされているのです。言い換えればミッドが凹んでしまって”らしさ”が出ていない方が大半だったりします。しかし自分の音しか聴いたことがなく、どうしても”引き算”でバランスを取ろうとしてしまうと良さまで何処かへ行ってしまう…そういうトラップがこの形式にはあるのです。

そういえば東京のHさんも最初はそんな感じでしたが少し触っただけで見違えるほど良い音になたことを今でも覚えています。思い切って中域をガバっと上げてみる…そこから見えてくることもあるのです。Hさんの場合はバイアンプ(マルチ)によって極めて良い結果が出た事例です。

Aさん宅で各種テスト信号やAさんの愛聴盤で少しづつバランスを取り直した結果、最初とは見違えるような量感と鮮度の両立したバランスに近づいてきました。ツィーターレベルを0.5dB動かしただけで音の質感がすっかり変わるシビアさにスタジオモニター直系の難しさを感じつつ、少し触っただけでダイレクトに反応してくる感度の高さに改めて”難しいけど凄いスピーカーだな”と感じた次第です。

帰り際にAさんに”あとは部屋の響きとの帳尻り合わせですから試しに絶対位相を反転してみるのも手かもしれませんね”と申し上げて失礼しました。絶対位相(アブソリュートフェイズ)の反転について試したことがある方は少ないかもしれませんが以下のポスト(中段)で解説しています。

これを私が初めて知ったのは70年代、瀬川冬樹さん(オーディオ評論家)がSS誌に書いておられたのが最初と記憶していますが大口径ウーハーを擁するスピーカーシステムほど大きな変化があります。帰宅してAさんのメールを拝見すると

お忙しい中、わざわざ来られ滞在時間まで延長して調整、貴重なお話までしていただき感激しました。計器に頼らず耳で判断して調整する姿に尊敬すら覚えました。帰られてから、さっそく間隔を広げ低域を逆相接続すると、同席していたTさんまで驚くような全域がすっきり聴こえました。自分の指向も進む方向もわかりました。

ということでやはり低域が部屋に与える影響の大きさがかなりのものであったのだなと改めて気づいた次第です。

今なお多くのオーディオファイルの憧れの対象であるJBL15インチのマルチウェイ。触れる部分が多いだけに調整が難しいのは事実ですが現行オーディオのようなブラックボックス的でない自由さも大きな魅力の一つ。Aさんにはこれからもご自身の指向する音に貪欲に取り組んで頂きたいと思っています。



by audiokaleidoscope | 2019-06-08 23:59 | オーディオ

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