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プッシュプルアンプ選びの真の動機とは?(845編)

先週末のお話です。京都のAさんが遊びにいらっしゃってJBL4365を鳴らしておいでのSV-310+SV-38Tの定期健康診断をさせて頂いた時のこと。
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SV-38TはSV-91Bと並ぶ845シングルのフラッグシップとして開発された機種。WE311B-300B-845-5U4Gという構成のモノアンプ(2台一組)で300B/845間のカップリングをインターステージトランスで行う、つまりトランスドライブ方式。トランスドライブにすることでプラスバイアスまで振り込むことが出来、シングルでありながら30W以上の出力を得ることが出来ます。

シングルとプッシュプルそれぞれの傾向と対策についてはこれまでも何度となく申し上げてきた訳ですが、大雑把に言ってシングルアンプ=小出力ということから

シングルアンプ:スピーカーの能率が88dB以上,形式的にはフルレンジかウーハーが25㎝以下の2ウェイを推奨

という事を申し上げてきました。

しかしながら送信管(特に845)アンプは例外でシングルでも15W以上の大出力が得られるものが多いため低能率のマルチウェイあるいは大ウーハーを擁する大型システムを鳴らす方がかなりいらっしゃいます。つまり表現として繊細で真空管の個性を色付けすることなく出し、且つ大出力で鳴らすスピーカーを選ばない…ということから送信管シングルこそ究極の真空管アンプである、という事も出来る訳です。Aさんもそんな一人です。

Aさんのアンプの点検項目としては残留ノイズ,ゲイン,出力という電気的側面だけでなく、機構的には真空管ソケットのピンの緩み確認やセレクターの接点周り、また内部のコンデンサーの膨らみや抵抗の変色の有無等の確認に至るまで多岐に亘ります。概ね2時間程度かけて各部の点検が終わってAさんと一緒に845ならではの高域の輝きとトランスドライブならではの筋肉質な低域のコンビネーションを一緒に楽しんでいたのですが、不意にAさんから”そういえば特選中古品カテゴリーで845のプッシュプルが出てましたね”とひとこと。

ホームページのリニュアル以降の取り組みとして完成品中古の下取りを始めて約1年。特選という名に恥じないクオリティのものだけアップしてきたのですが、ほとんどが即日注文(長くて数日)という状況でご不便をお掛けしている現状です。

Aさんが仰った845プッシュプルは”SV-2PP(2009)”というサンバレー20年余の歴史の中でも最大,最重の製品ということもあって偶々Aさんがいらっしゃった時にはご注文が入っていない状況でした。
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2台で80kgオーバー。出力は公称70W/chですが実測で80Wを楽々超える大物アンプがSV-2PP(2009)です。販売当時の説明文には「300Bシングル+845ブースターアンプのイメージに相応しい猛々しさと繊細感が極めて高いレベルでバランスしたアンプが完成しました。ひとことで言えば真紅の炎がメラメラと立ち上がっているような”熱い音”でありながら845ならではの透明感を加えた音です」と書かせて頂いていましたが、SV-38Tに満足していらっしゃるAさんも試しに聴いてみたくなるのは無理からぬこと。ちょっと聴いてみます?…ということで実機を試聴室に移動してきたのが下の写真です。
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とてもじゃないが独りでは動かせないのでワゴンに載せたまま試聴。プリはAさんのSV-310です。

これは845アンプに限った話ではありませんが、アンプ出力が大きくなったからといって音楽を聴く音量は変わらない訳です。4365の公称能率は恐らく90数dBはある筈ですのでアンプの実出力はJBLのマルチウェイであろうと10Wもあれば十分実用になります。しかし冒頭にも書いた通りウーハーの口径が大きくなればなるほど出力以上に”ドライブ力”が求められるのも事実。車のエンジンで言えばピーク時の馬力よりも常用時のトルクこそが肝と言った方が良いでしょうか。そこが数字の向こう側にある真のプッシュプル選びの動機という事が言えるかもしれません。

同じ音量でSV-38TとSV-2PP(2009)を聴き較べても優劣という概念は出てきませんが、Aさんはひと言”PPの方が音が前に来る感じ”と仰いました。これぞまさにプッシュプルの最大の個性と言えるかもしれません。逆に言えばシングルであるSV-38Tは音場感に優れ、2つのスピーカーの後方に音像が定位する傾向があります。こんな武骨なアンプでありながらSV-38Tはクラシックファンの方が多かったのもその証左です。

かくしてSV-2PP(2009)は京都へ嫁ぐことが決まり、SV-38Tは次なるユーザーさんにバトンをお渡しするまで私どもでお預かりさせて頂くことになりました。更に吉報としてもう1セットSV-2PP(2009)が近日入荷することも決まっています。

ご興味のある方、当社試聴室で845シングル/プッシュプルのフラッグシップ対決を体験してみませんか?真空管アンプに対する印象や先入観が根底から覆るかもしれません。なかなかできない体験だと思います。



by audiokaleidoscope | 2019-04-08 14:37 | オーディオ

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