今回二本目の収録(5/31,6/7オンエア)は有名ハイエンドブランド
UESUGI(上杉研究所)が登場。番組ゲストでお迎えするのは2度目です。

前列右:UESUGI代表 藤原さん,左:クロステックラボラトリ代表 八子(やっこ)さん
昨年の収録の様子は
こちらに詳報されていますが、この際もっとも関心を持ったのが
U・BROS-300(300Bシングルパワーアンプ)でありました。通常300Bシングルでは8W/ch程度が標準ですがカソフォロ直結ドライブで12W/chという最大出力を誇りつつ300Bならではの情緒感あふれた繊細なサウンドが今でも耳に残っています。
あれから1年。実は以前から”UESUGIから交流点火の300Bシングルが出る(らしい)”という噂は耳にしておりました。少々手前味噌になりますが個人的に300Bの本質的魅力は交流点火にあり!という一貫した信条を創業当初から持ってきました。交流点火と言ってもピンと来ないかもしれませんが、300Bのフィラメント(5V/1.2A)電源を直流で供給するか交流で供給するかによって音質が大きく異なるという事実を知る方は真空管アンプファンの皆さんでもそれほど多くないかもしれません。
事実、現在市場にある300Bアンプの99%以上が直流点火です。これは直流点火することによって交流点火と比較して残留ノイズが激減することと共に300Bそのものの選別落ちが少なく済む(歩留まりが上がる)からでもあります。つまり静特性,コストの両面から直流点火とするメリットの方が遥かに大きいという背景によるものです。
裏返せば交流点火で特性を出そうと思うと極めて愚直で気の遠くなるような反復作業、すなわち配線の引き回し方法によるノイズレベルの比較を何十回と繰り返したり、アースポイントの見直しによって僅かなノイズレベルの差異に注目したり…と回路図上には出てこないノウハウの塊のようなアンプにならざるを得ません。アマチュアの方が交流点火で300Bシングルを作っても残留ノイズが10mV以上となり、多くの場合実用にならないのも無理からぬことです。
Western Electricの300Bアンプは元々全て交流点火であり、その音は交流点火だからこそのものである、と主張する方も多数いますし私もその主張に賛同する一人です。実は当社初号機SV-1(300Bシングルパワーアンプ:1999)が交流点火であったことをご記憶の方もおられるかもしれません。
その後2010年代に入りLM91Aを限定60台企画。


Western Electric91Aをオマージュしつつ初段五結,ドライブ三結に設計変更しゲインを適正化すると共に上述のようなノイズの追い込みに1年半かかってオリジナルWE91A比で残留ノイズ1/4を達成した苦心作でありました。そしてこのノウハウを量産機に投入したのがご存じ
SV-2300LM。プッシュプルによる打ち消し効果も相まって直流点火並みの残留ノイズを達成し、大型ヴィンテージスピーカー愛好家の皆さんから大きな支持を頂いて今日に至っています。
今回取り上げたUESUGIの新作
U・BROS-300AHは、その交流点火方式を私どものようなインディーズブランドでなく歴史あるメジャーメーカーが採用したことが個人的にも大きな歓びであり、まさに百万の援軍を得た想いでありました。代表藤原さんに伺うと2年ほど前交流点火の300Bシングルを試作し音を聴いた結果、これしかない!ということで製品化を決断された…ということでやっと本日実機の音を聴かせていただく機会に恵まれたという訳です。

まずは従来機、つまり直流点火のU・BROS-300を試聴。昨年の収録を彷彿させるキレの良さとスケール感の同居したサウンドを聴かせて頂きました。
そしてその後、今日のメインディッシュであるU・BROS-300AHがいよいよ登場です。

AHは”Alternating current Heating”…まさに交流点火であることを明示的に謳った製品である証。この300AHが凄いのはこのノイズ低減プロセスをDSPつまりデジタルドメインで行っている点です。交流点火でありながらデジタル技術を駆使し直流点火同等の残留ノイズを達成されているところが空前絶後の作品であると言われる所以です。
DSP方式による残留ノイズ低減の技術的要諦は
こちらをご参照下さい。この技術を実用化(特許出願中)したのが上の写真のクロステック八子さんその人です。真空管アンプをデジタルで制御…それだけで拒否反応を示す方も或いはおられるかもしれません。しかし心配はご無用。藤原さんも八子さんもオーディオマインド溢れるエンジニアですので定量指標のために定性(官能)評価を犠牲にすることは決してありません。
つまり
① すべてのデジタル処理を1チップの DSP(AD,DA 内蔵)マイコン内で行ない、インターフェースポートはアナログドメインで動作しデジタル信号は外部へ出力しない
② ハム雑音消去信号は直熱管のハム発生箇所に注入し、この信号が他の増幅回路に流れることがない
ことが特筆すべき事項です。つまり音質的な背反事項は皆無なのです。事実直流点火のU・BROS300と同300AHを同音源,同ゲインで比較試聴すると明らかな中低域の厚みや音触(音の手触り)のリアリズムが向上し300Bの美点(魅力)が数段向上して感じられます。
一部の直流点火300Bアンプに見られる”きれいな音だけど平板に感ずる音”でもなければ”音の表面がツルンとして300Bならではの豊かな倍音感が損なわれる”こともなく、且つ一般の直流点火同等の残留ノイズを達成しているところがU・BROS300AHがオンリーワンの存在である所以。1時間の収録ではこのアンプの魅力を語り尽くすことは決して出来ませんが、是非とも改めてお手合わせをお願いしたいと思わせる逸品でありました。
音は人なり…尊敬する大先輩が創りあげ示した新たな真空管アンプの地平。これからもUESUGIから目が離せません。