今回の上京の締めくくりは都内のKさん宅。

この写真に何となく見覚えがある方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。そう
約一ヶ月前に納品にお邪魔したばかりですが、よく見ると…

SV-284Dが1台から2台に変わっています。当初B&W 800D3を鳴らすために選ばれたのはステレオモード=一台のSV-284D。SV-300LBと直結した全段トランス結合モードでした。ポテンシャル的にはこれで充分…である訳ですが284Dを導入されて間もなく”モノラルで聴いてみたい”というオファを頂きました。
真空管アンプの大出力化のための一般的選択としてはプッシュプルがあります。

Push側,Pull側それぞれの増幅回路に正相/逆相の信号を入力し出力トランス一次側で合成し2倍(以上)の出力が得られるのがプッシュプル回路です。シングルアンプの弱点と言われる低出力,出力トランスの直流磁化による低域レスポンスの低下という弱点がない代わりに真空管アンプならではの瑞々しい質感や繊細感はシングルに一歩譲るという意見もあり設計者の腕が問われるのがプッシュプルです。
SV-284Dではモノラル動作時はプッシュプルでなく”バランスドシングル”という回路を採用しています。分かりやすく言うとプッシュプル用の出力トランスをシングル用の出力トランス2個に置き換えることでシングルアンプの音質とプッシュプル並み(シングル×2倍)の出力を低歪みで得られるのが最大の特徴です。欠点はコストがかさむことですがバランスドシングルでしか得られない音質があり、SV-284Dでは送信管の透明感を活かしつつ大出力を得る為の方策としてこの価格帯では異例ともいえるヒット商品となりました。
これを実測データで捕捉してみましょう。Kさんにお納めした実機の取得値です。

先ず残留ノイズですが打ち消し効果によってステレオモードよりもモノ(バランスドシングル)時の方がかなり向上しています。真空管アンプはフィラメント(ヒーター)電圧が高いほど残留ノイズも上がりがちですが一般的な845アンプの残留ノイズが1mV前後にあるのに対してかなり優秀な値を示しているのにお気づき頂けると思います。
そして出力はほぼ理論値通りの倍の60W(以上)が得られています。面白いのは845プッシュプルでは中低域の厚みと量感が増すのに対してバランスドシングルでは低域が締まって深く沈み込む感覚であること。表現の能動性(個性)ではプッシュプルも魅力がありますが端正さと色付けのなさではバランスドシングルに軍配が上がるでしょう。B&W 800D3でいえば超低域の音階まで正確に描き分けるという点では過去最高の表現力でした。
Kさん宅で鳴らし始めて30分ほどで音が馴染んできたところで某高級オーディオ販売店の社長さんがいらっしゃいました。聞けばこれたらsonus faberのIL CREMONESE(イル・クレモネーゼ)の設置が始まるとのこと。

私はその後の予定が詰まっていたので後ろ髪を引かれる思いで失礼したのですが、300Bプリ+845バランスドシングルが甘美な音色のソナスをどう鳴らすか…ぜひ次回上京の際に聴かせて頂こうと思っています。