今日は一枚の写真からご覧いただきたいと思います。

上は皆さんよくご存じのSV-Pre1616D(右)とSV-EQ1616D試作(左)です。そして下はQUAD(UK)の1960年代後半の初代半導体プリアンプQUAD33(右)と同FMチューナーFM3(左)。何となく重ねてあるだけのように見えるこの写真ですが実はとても深い意味があります。実はこのサイズの近似性は偶然の産物ではありません。
QUADというメーカーについては多くの方がご存じでしょう。現在はIAG(China)の傘下ですが、その歴史は長く設立は1936年にまで遡ります。創始者はピーター・ウォーカー。QUADという社名は「Quality Unit Amplifier Domestic」の略で”家庭という最も身近な場所で音楽を楽しむためのハイクオリティなオーディオ機器”という意味が込められているとか。この”Domestic”という言葉が最も現代の趣味のオーディオに欠けている概念かもしれません。
これについて2011年の旧店主日記(現在非公開)に関連する記載がありましたので抜粋してアーカイブしておきます。
数年前よく日記でも使った"ドメスティックオーディオ"という言葉を皆さんは覚えておられるでしょうか。根津さん(注:元NHK交響楽団)はご自身のHP(2004/9のひとりごと)でこう書かれています。
”大橋さんのひとりごとに載っていたドメスティック・オーディオについてお話します。
私達にしてもCDやレコードを通して聴く機会が生を聴くより圧倒的に多いものです。ですからオーディオの音質はとても大きな問題です。ですが私にとって最も大切なものはオーディオではありません。
私達がヴァイオリンを弾き慣れてくるに従って少しずつ腕に合った物にグレードアップするのと同じです。高ければ良いというものではないのは楽器もステレオも全く同じで、初心者が名器を欲しがるのとよく似ています。Stradは有能な弾き手を必要とするのです。腕が伴わなければこんなに弾き難い楽器はありません。
生活空間を侵さない範囲で出来るだけ良い音を求めるというのがドメスティック・オーディオです。一つ付け加えると特性より表現される音を大事にしているのです。音楽を聴く事は話をするのと同じ次元の出来事だから.....”
(ザ・キット屋店主のひとりごと 2011.04.02より)
そしてもう一つ。QUADの創始者ピーター・ウォーカーは「もっと大がかりでハイグレードなアンプを作らないのか」という質問に対して次のように答えています。
もちろん当社にそれを作る技術はあります。しかし家庭で良質のレコード音楽を楽しむとき、これ以上のアンプを要求すればコストは急激にかさむし形も大きくなりすぎる。いまのこの一連の製品は一般のレコード鑑賞には必要かつ十分すぎるくらいだと私は思っています。音だけを追求するマニアは別ですが……
(ステレオサウンド41号:1976.12より)
このDomesticという概念はシンプルというよりも”Minimal"(ミニマル)という感覚に近いかもしれません。余計なものを削って削って最後に残ったエッセンスを磨き上げる…これこそが当初から1616プロジェクトの根底にありました。その結果としてS1616D,P1616D(多極管仕様)では殆んどのビーム管,五極管を無調整差替えが出来ますし、Pre1616Dでは世界初のプリ管ECC81~83(12AT7, U7, X7)の自由選択を可能として大ヒットとなりました。そしてEQ1616Dでは各種EQカーブに対応するその自由度の高さを最大の強みとしてAll Purposeを標榜して開発を進めています。これらの特徴も突き詰めればミニマルであるが故の産物です。
この凝縮感、サイズ感、そして機能美…QUADの足元にも及ばない私たちですがQUADに通じる精神性を真空管で実現したかった。とかく教条的で〇〇でなければならないという呪縛に溢れたオーディオだからこそ、このドメスティック的感覚がいま求められているように感じています。その意味でQUA33+FM3、そして写真には写っていませんが303(パワーアンプ)は永遠の憧れであり究極の目標です。
