フェアの告知も終わり、サンプルが入荷したPSVANE 211/845のチェックでもと思いつつ灯入れ式。
お!なかなか…と思っていたところで意外な外来診療(チェック依頼)の機器たちが。PSVANEレポートは改めてしっかりしますね。
最初はトリオの高級チューナー。1976年発売当時の定価15万円也。
内閣府発表の消費者物価指数によれば2010年対比で1976年=61.3から単純計算して今なら約25万円。しかし当時はオーディオ黄金期で作っていた数(製造ロット)が全く違い、下手すればゼロが一個違う時代ですから、今この物量を投入したら倍どころではきかないでしょう。ずっと使わずに保管されていたということで使えるのかどうか…という持込みでした。
アンテナ線をつないで早速聴いてみると、実に素晴らしい!日ごろショールームで聴いているデジタルチューナーと同じ局を受信しながら比較試聴してみると音の滑らかさ,中低域の深み,密度感が全く別物。これはスゴい…とPCで波形観測してみると…
モーツァルトのヴァイオリンコンチェルトのソロのボウイングの瞬間の取込み画像ですが、倍音の整列の具合などはLPもかくや…と思わせるほどの惚れ惚れする美しさ。詳細な測定をする時間はありませんでしたが、当時のオーディオメーカーの技術力と気合いに完全にKOされた想いです。いままで聴いたFMチューナーの中でも抜きんでた音質に本当に驚きました。
続いての患者さんはQUAD
44+
405。
以前の収録でQUAD 33+303の音が素晴らしかったので期待して通電してみたのですがプリのレベルを上げるとパワーのリレー(たぶん入力部)が内部でカチャカチャとチャタリング(ごく短時間にON/OFFを繰り返す現象)を起こしているので残念ながら確認をいったん中止。交換部品が手に入るかどうかわかりませんが、これはドックインが必要なケースです。オール手配線の真空管アンプでは起こらないトラブルですが当時(80年代)はハイテクパーツが盛んに使われた時代ですので405のような素性の良いシンプルな半導体パワーアンプでも周辺パーツのトラブルで涙をのむケースが少なくありません。何とかなればいいなと思います。
そして最後のご相談はちょっとショッキングな画像。
いまから15年くらい前にお納めしたSV-91B(オールWE仕様)。なんでもアンプの前でレコードをチョイスしていた時にバランスを崩して後ろ向きに転んでお尻がアンプを直撃!なんとも都合が悪いことにWE300Bが2本とも根元でボキッと折れてしまっています。最初に写真を見た時”これは厳しいかも…”と直感的に思ったのですが、実機を持ち込んでいただいて慎重にタマを引き抜いてみると…
これぞ不幸中の超幸い!二本ともゲッターが残っていて各ピンと電極間の導通もOK…ということは縄文時代の土器のようにベースの破片を上手にくっつけていけば直る可能性も高いケース。WE300Bの隣にささっていたWE274Bはベース中央部のガイドピンが折れてはいますが電気的には問題ないことが分かったのでこれも大丈夫。アンプ本体は全く異常なかったので当面はお持ちの代替WE300B(88年26週ロット)とRCA 5R4GYを使って頂くことにしました。仮に買い替えればペア30万円オーバーのタマ。頑張って修復したいと思います。
こういう外来診療が偶然続いた訳ですが、こういう作業を通じて色々な発見や勉強ができるものです。先の豪雨で広島や岡山のお客さんから”オーディオが水に浸かった”という連絡を頂いたり、今日も北海道からアンプが棚から落下した…という一報を頂いたり皆さんお困りのケースもあると思いますが、なんとかなる場合もありますので諦めずに信頼できる業者に声を掛けて頂いて出来る事なら修復して欲しいなあ、と思います。
機器は買い換えれば幾らでも更新できる訳ですが、その機器で聴いた美しい音とその時の想い出は二度と還ってきません。買うことよりも使い続けること…それこそが趣味なんだと思います。