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A5で聴く211シングルとKT120プッシュプル

今日は酷暑のなかHさんのリスニングルームにお邪魔してきました。オーディオ全盛期…誰もが憧れた二つのスピーカーの音を存分に楽しめる聖地です。
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メインはALTEC A5。お客さんでA5,A7をお持ちの方はたくさんいらっしゃる訳ですが元々HiFi用途でなくパブリックアドレス用スピーカーであったこともあり程度も千差万別。特にLF側の828(エンクロージャー)は米松(828B)とパーチクル(828C/828E) があり、前者は湿度変化によるビビ割れ,後者は吸湿による合成樹脂接着剤の劣化で発生する摩滅(崩れ)が散見されることから購入時には綿密な検査が必要です。Hさんの828Bは入手前に使われていた環境が良かったと思われ状態はほぼパーフェクト。311B(ホーン)保持用のステーも純正品という素晴らしさです。
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こちらはサブの4343BWX。ウーハーのウレタンエッジの劣化がよく問題になりますが案外見落としがちなのがミッドバス。ウーハーよりも振幅が小さいので劣化に気付き難いのですが、Hさんの個体は張り替えから間もないのか全く問題ない状態でした。

仕事柄よくお客さんのリスニングルームにお邪魔させていただく訳ですが、広さや残響の長さとともに湿度の差が大きいことに気付きます。一般にオーディオに最適な湿度は40%~50%と言われますが一番悪いのは乾期と雨期の差が大きいこと。これはオーディオ機器に最大の静的ストレスとなります、冬はストーブつけてカラカラ、夏は聴く時以外は閉め切りでジメジメ…というのがいちばん厳しい訳ですがHさんのリスニングルームは別棟で建屋自体が植栽にカバーされて直射日光から回避されていることもあり湿度的に安定していることが機器にとっても良い環境であることがよく分かりました。そういえばHさんは建築業…その辺りの要諦は私が申し上げるまでもないことでした。
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まず聴かせて頂いたのはSV-S1628D/211仕様。写真では写っていませんがプリはSV-Pre1616D(オール12AU7+5AR4仕様)。テストソースは名盤アン・バートンの”Ballads and Burton”です。
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ALTEC系スピーカーを211シングルで鳴らして聴く女性ヴォーカルは絶品!というのは既に多くのオーディオファンの知るところ。その極致のひとつがA5だったりする訳ですが、211で聴くアンバートンは甘美さとけだるさまでも表現するような生々しさでゾクゾクするリアリティ。音像が小さくなり過ぎず、肥大する訳でもなく二つのA5の間に浮かび上がるさまはまさにオーディオのマジックです。

A5のHF側(コンプレッションドライバー/ホーン帯域)のアッテネーション(ネットワークN500F-Aの高域レベル)を僅かに下げるとHFとLFの繋がりが更にシームレスになりフルレンジにような自然さに。いままで聴いてきたA5の音のなかでも1,2のバランスの良さです。シアター系スピーカーは雑で大味…というのは明らかな間違いで多くの場合はアンプとのマッチングが悪いかHF/LFのバランスがおかしいかのいずれかです。
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これはいいぞ!ということになり、興味本位で4343BWX用のSV-P1616D/KT120を敢えてA5で聴かせて頂きました。Voice of the Theaterの時代、A5/A7を真空管で鳴らしたのは時代性もあり多くが多極管プッシュプルでした。ALTEC 1568A辺りがその代表選手である訳ですが何百人も入るパブリックアドレスならいざ知らず、自分ひとりのために囁きかけて欲しいプライベートオーディオでは音が乾き過ぎていたり低域のキレが良過ぎたりして少し聴き疲れがする傾向の音になりがち。半導体アンプでは更にその傾向が増す訳でピュアオーディオ用途でA5/A7に直熱三極管300Bや211が賞用されるようになってきたのは半導体アンプ以降の現象でせいぜい30年くらいのことなのです。

では私どもの多極管プッシュプルで、それも最も音の速いKT120でA5がどう鳴るんだろう…という単純な興味であった訳ですが1568A系とは全くベクトルの異なる世界が現れて私にとっても非常に貴重な機会となりました。

まずはレンジ感。P1616Dに替えた瞬間に音の温度感がグッと下がりクールでモニター的な音に早変わり。ベースが俄かに締まり音像が小さくなる代わりに音場が大きく開く印象です。いちばんの変化は写真でいうところの絞り。211は絞りを開けてアン・バートンだけにスポットが当たっているような印象だったのがKT120プッシュプルではF値を小さくしてステージ全体を明晰に魅せる感覚です(絞りと写真の関係についてはSONYさんのホームページに詳しく解説されています)。

もちろんPA用アンプのような粗さは微塵もありません。コアなジャズファンはこっちの方が好きかも…というクールでハイスピードなサウンドでした。これがKT150辺りになるともう少し円やかさが出ることでしょう。この多様性が真空管アンプの楽しさの真髄です。
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想定外の相手に繋がれてP1616Dも若干戸惑ったかも(笑)。でも予想した以上の変化で私もたいへん参考になりました。一方でスピーカーのチューニングさえ決まっていればどんなアンプでも受け入れる度量のようなものが出てくるのも事実。その意味でもHさんのA5は逸品といえるでしょう。再び聴かせていただきた実に良い音でした。





by audiokaleidoscope | 2018-08-03 02:21 | オーディオ

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