皆さんは”マスタークロック”については既によくご存じだろうと思います。簡単にいえばデジタル機器が宿命的にもつ”ジッター”(時間軸方向での信号波形の揺らぎ)を低減させる目的で使用される機器で元々はスタジオ環境で使われていたもの。それが民生機に拡がりを見せてきたのはここ10年位のことです。特に複数のデジタル機器(例えばCDトランスポート+DAコンバータ)を一台のマスタークロックで”同期”することで見かけ上の(機器間の相対的な)ジッターがほぼゼロになることで特に音のフォーカス,音場再生に極めて大きなメリットがあることから急速に普及してきました。


問題はそこからでした。輸入元作成の仕様書を見るとドイツ国内でハンドメイドされた超低位相ノイズOCXO使用と謳われていて価格は税込40万円程度。正直OCXOなら他にもっと廉価なものが幾らでもあるし既にルビジウムを使っているので正直あまり興味が湧かなかったというのが本音でした。ただ折角デモ機を送って頂いた以上は少なくとも印象を報告する義務がありますので、まずはMC-3+USBに接続してみたところ、自分の耳ではどう聴いても現用のルビジウムよりも音が良い。良いという言い方が適切でなければ非常に滑らかで一部の10Mクロックに見られるヒリヒリした感じが全くありません。
試しに背景を説明せずに何人かにブラインドホールドで”どちらが良い?”と訊いたところやはりRef10の方が良いという人が多く自分の中で大きな混乱が始まりました。なぜOCXOがアトミックに勝つのか?…商品としてはもちろん魅力的。でも会社で扱う以上は単に音が良いだけでは説明がつかない。ちゃんと理屈(理由)が説明できないものは売るべきではないと考え、申し訳なかったですが一旦デモ機をお返ししました。ただ輸入元には”この滑らかな音には必ず理由がある筈だから是非本国に問い合わせて欲しい。その回答が理論的に納得できるもので販売元としてお客さんにきちんと説明できる内容であれば直ぐにでも扱いたい”とお詫びがてら申し上げておきました。



