ケーブルという”鏡”
2018年 07月 17日
SV-S1628D/845でその高域のリニアリティの高さと音場の広さを聴かれたあと、SV-91B+SV-284D/845仕様を聴かれた訳ですが、この組み合わせにはMさんのみならず多くの方に或る強いインパクトを与えるようです。LM69(フルレンジスピーカー)がまるでホーンスピーカーのような闊達さを伴って音が前に出てくるだけでなく格段に高まる情報量…真空管アンプは音が丸い,柔らかいという平板な印象を吹き飛ばすような表現力と音楽性の高さは他のアンプ以上にSV-284Dの独壇場です。
午後からはステレオ誌の取材。10月号(9/19発売)の企画でオヤイデ電気の各種ケーブルを当社のショールームに持ち込んで聴き較べてみようという企画です。ウチでよければ喜んで!と申し上げて今日を迎えた訳ですが、取材にこられたのはこの方。

前にも書いたことですが、アンプ等いわゆる”能動系”の開発をやっていると、どうしてもケーブル等の”受動系”に対しての意識が希薄になります。言い換えれば出力管が替わったり回路形式が替わった時の本質的な”鳴り”や”響き”が変化に注目してこの仕事をやっているようなものですから電源ケーブルやラインケーブルによる音の変化に対して敢えてブラインドでいようとしていた自分を否定できません。しかし今回自分の体の一部分といってもいい我がショールームで自ら開発した機器を肴にケーブルの聴き較べをさせていただいたことで改めて本質的な音への影響の大きさを気付かされた気がします。
替えたのはインターコネクト(ライン)ケーブルと電源ケーブル。アンプはSV-Pre1616D+SV-P1616D/KT88仕様で固定しました。平間さんご自身もP1616Dをお使いですので、場所が変わることで平間さんにも何か発見があるのではないかという期待もありました。
数年前までは心のどこかで”柱上トランスから壁コンまで数十メートル(以上)も引き回っているのに壁コンからアンプまでの僅か2m程度を異素材にしたところで何が変わるというのか…プレーヤーからアンプの出力端子までトランスの巻線まで含めれば100m以上の信号経路がある中で1m少々のラインケーブルを替えてナンボのもの…という疑念がずっとありました。それが番組の収録やお客さまのリスニングルームでの数々の体験のなかで機器のレベルが上がるにつれケーブルの個性(差異)が明確に聴き分けられる体験をし、頭では否定しつつも耳がその違いを明確に感じるアンビバレントな感覚が今日、自分のホームグラウンドでしっかり聴かせて頂いたことによって決定的なアンカーを打ち込まれたような心境です。
今でも”ケーブルが固有の音をもつ”という感覚には違和感があります。しかしケーブルによって機器の持ち味(個性)の引き出し方が明らかに変化することについては全く異論はありません。特に今回収穫だったのはケーブルの聴き較べによって”自分の好きな音(帯域バランス,音の調性)がよく分かったことです。雄大でありながら付帯音がなく弾むような低域、そしてピーキーさを感じさせずに自然に伸びつつ中域の自然さを損なわない高域…まさにそれはアンプにおけるヴォイシングに極めて近い重要な営みであることを勉強させて頂きました。
ステレオ誌10月号では今回の体験がどうレポートされるのか…実に楽しみです。