ケーブルという”鏡”

今日は午前中フィリピンから試聴のお客さま…とはいっても今回で三回目の勝手知ったる間柄です。SV-91B,SV-2300LM(2A3仕様)でタンノイ カンタベリーを鳴らしていらっしゃるMさんの今回の目的は第三のアンプ探し。300Bシングルとも2A3とも違う音を楽しみたいというMさんのターゲットは845でした。

SV-S1628D/845でその高域のリニアリティの高さと音場の広さを聴かれたあと、SV-91B+SV-284D/845仕様を聴かれた訳ですが、この組み合わせにはMさんのみならず多くの方に或る強いインパクトを与えるようです。LM69(フルレンジスピーカー)がまるでホーンスピーカーのような闊達さを伴って音が前に出てくるだけでなく格段に高まる情報量…真空管アンプは音が丸い,柔らかいという平板な印象を吹き飛ばすような表現力と音楽性の高さは他のアンプ以上にSV-284Dの独壇場です。

次回の来日は12月…いま非常に完成品のご依頼が多く3ケ月くらいはかかりますが12月なら間に合いますのでご安心を…と申し上げていたら不意にMさんが仰ったのは帰国時にSV-284Dをハンドキャリーで持ち帰りたい…このデモ機で構わないから何とかしてくれ!というものでした。通常ならお断りするのですがMさんの強い眼差しは私のいかなる弁解をも受け容れない何かに満ち満ちていて今回はさすがの私も折れました。帰国までの限られた時間の中で出来る限りの再整備を行い空港にお届けしたいと思います。

午後からはステレオ誌の取材。10月号(9/19発売)の企画でオヤイデ電気の各種ケーブルを当社のショールームに持ち込んで聴き較べてみようという企画です。ウチでよければ喜んで!と申し上げて今日を迎えた訳ですが、取材にこられたのはこの方。
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そう、平間さんです。不思議なもので先週は全く別のプロジェクトで対談相手になっていただいたばかりなのに、たった数日のインターバルで別の媒体で更に言えば関わっている人も一人もダブっていない企画でこうやって再び一緒にオーディオを語る縁起珍妙。平間さんの強い磁力に私が引っ張られているだけと言えばそれまでですが、本当に不思議な何かを感じます。

前にも書いたことですが、アンプ等いわゆる”能動系”の開発をやっていると、どうしてもケーブル等の”受動系”に対しての意識が希薄になります。言い換えれば出力管が替わったり回路形式が替わった時の本質的な”鳴り”や”響き”が変化に注目してこの仕事をやっているようなものですから電源ケーブルやラインケーブルによる音の変化に対して敢えてブラインドでいようとしていた自分を否定できません。しかし今回自分の体の一部分といってもいい我がショールームで自ら開発した機器を肴にケーブルの聴き較べをさせていただいたことで改めて本質的な音への影響の大きさを気付かされた気がします。

替えたのはインターコネクト(ライン)ケーブルと電源ケーブル。アンプはSV-Pre1616D+SV-P1616D/KT88仕様で固定しました。平間さんご自身もP1616Dをお使いですので、場所が変わることで平間さんにも何か発見があるのではないかという期待もありました。

数年前までは心のどこかで”柱上トランスから壁コンまで数十メートル(以上)も引き回っているのに壁コンからアンプまでの僅か2m程度を異素材にしたところで何が変わるというのか…プレーヤーからアンプの出力端子までトランスの巻線まで含めれば100m以上の信号経路がある中で1m少々のラインケーブルを替えてナンボのもの…という疑念がずっとありました。それが番組の収録やお客さまのリスニングルームでの数々の体験のなかで機器のレベルが上がるにつれケーブルの個性(差異)が明確に聴き分けられる体験をし、頭では否定しつつも耳がその違いを明確に感じるアンビバレントな感覚が今日、自分のホームグラウンドでしっかり聴かせて頂いたことによって決定的なアンカーを打ち込まれたような心境です。

品番も価格もよく分かっていないなかで次,次…と替えていきながら感想を聴かれる訳ですが、固有の音色(ねいろ)をもっているというよりもケーブルによって同じ楽曲の同じ部分を聴いていてもハイライトされる部分が大きく変化することに気づきます。ケーブルによって低域の量感,高域の伸び,立ち上がりのスピード感、情報量が増す帯域が変化ことはもちろんですが、今回最大の発見だったのは特に電源ケーブルにおいてパワーアンプよりプリアンプの方が明確に差異を描出したことです。頭で考えると電力消費の大きいパワーアンプの方が変化量も大きいのでは…と勝手に想像していたのですが事実は然にあらず…いかにプリがオーディオのなかで重要であるか(=音に与える影響の大きさ)に正直耳から鱗のひと時でした。昨今はケーブルの価格がアンプと同等(以上)なんてのも珍しくない訳ですが、今回気に入ったケーブルの多くが2~3万円台のリーズナブルなものばかりでオヤイデが支持される理由も自ずと明確になりました。

今でも”ケーブルが固有の音をもつ”という感覚には違和感があります。しかしケーブルによって機器の持ち味(個性)の引き出し方が明らかに変化することについては全く異論はありません。特に今回収穫だったのはケーブルの聴き較べによって”自分の好きな音(帯域バランス,音の調性)がよく分かったことです。雄大でありながら付帯音がなく弾むような低域、そしてピーキーさを感じさせずに自然に伸びつつ中域の自然さを損なわない高域…まさにそれはアンプにおけるヴォイシングに極めて近い重要な営みであることを勉強させて頂きました。

嬉しかったのは”サンバレーのアンプが素直で色付けがないからこんな風にケーブルの違いが出るんですよね”と平間さんが仰ったこと。今までさほど重視してこなかったケーブルの比較試聴によって逆にケーブルが機器の評価の基軸になり得るというのも実に貴重な経験でした。実はケーブルは機器の素性を曝け出す鏡のような存在なのかもしれません。

ステレオ誌10月号では今回の体験がどうレポートされるのか…実に楽しみです。



by audiokaleidoscope | 2018-07-17 23:16 | オーディオ

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