今日は良いタマが見つかったので速報的にレポートします。まずは下の画像を見て”おっ!?”と思われた方はかなりの通といえるかも。

アンプの設計時の重要な分岐点として”
自己バイアス”と”
固定バイアス”の2つがあるのは皆さんご存じだと思います。上の写真で言えば左(SV-P1616D)は自己バイアス,右(SV-8800SE)は固定バイアスアンプ。それぞれにメリットがある訳でどちらが優れているという話ではありませんが、自己バイアスは出力管を差し替える時にマッチドペアであれば調整不要というのが最大のメリット。P1616D/多極管仕様のように多くの出力管が無調整で差し替え出来るのは使う皆さんにとって強力な武器といえます。一方で固定バイアスは真空管を差し替える度に調整が必要ですが、それぞれの出力管の限界性能を引き出す際に用いられます。高級アンプでは固定バイアスが多くなるのもこのためです。車でいえば自己バイアスがオートマ、固定バイアスがマニュアルトランスミッションと言うと分かりやすいかもしれません。
それで今日の本題ですが、まず下の写真をご覧ください。

右がGolden Dragon EL34。左が今日のネタの
KT90(エレクトロハーモニクス)です。たまたまSV-8800SEでKT88,KT120,KT150の他に差し替え可能な球はないか探していたところ見つけたのがKT90。メーカー発表の定格をみると…

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ヒーター定格的には6.3V/1.6AでKT88と同等ですがプレート損失がKT88の42W→46Wになっており、最大プレート電圧もKT88の800V→850V,スクリーングリッド電圧も600V→650V、加えてバイアス電圧は同等ということから通常のKT88アンプであれば差し替え可能と考えてよさそうです。電源部に余裕があれば最大出力もアップ出来るとあってこれを試してみようと思っていました。
時期を同じくして管球王国誌の次号の記事でSV-8800SEの真空管差し替えレビューをやりたいと伺ったので、これは絶好の機会とばかり当社での試聴前に各種差し替え球(KT88,6550,KT150)と共にKT90を渡したのが先週のこと。評論家の先生(誰かは不明)の試聴が終わりアンプが戻ってきたので編集部に電話してどうでした?…と訊いたところ”KT90素晴らしい!”ということで、改めて会社で本格試聴に臨んでいるという訳です。

これがKT90。KT120,KT150がTung Sol版のアッパーKT88とすればKT90はエレハモ版のKT88上位球といえます。KT120,KT150はヒーター定格がKT88と異なる(6.3V/2A)ことからアンプ側の制約によって使えない場合もたくさんありますが、EH90はKT88とヒーター定格が同じで他のパラメータが上位互換というところが魅力です。
早速セッティングします。バイアス調整値はKT88と同じ1V。アンプが安定したところで鳴らしてみます。音的にはKT88属の音というよりも”
超EL34”という感じ。中域の密度感が凄く低域の締りは多極管グループのなかでも最右翼といえます。EL34がわずかに音の粒が大きめで繊細感の表現が若干苦手という傾向がありますが、KT90では中高域の伸びだけでなく拡がりもありバランスも良い球であることがだんだん分かってきました。
KT120のクールさに較べ熱気があり、KT150のふくよかさに較べ筋肉質なKT90。温度感の高い音で且つワイドレンジに鳴らしたい方には絶好の球といえるでしょう。

こんどはSV-P1616DにKT90を挿してみます。P1616Dは自己バイアスなので単に挿し替えるだけでOKというところが良いですね。P1616Dでは8800SEほどの密度感はないもののEL34より確実にスケール感がアップしバリバリ鳴る感じです。聴感上のハイもローも伸びていて切れ込みが良い球であることがP1616Dでも十分確認出来ました。
この結果を踏まえEH90を即発注。今後8800SE,P1616Dの推奨バージョンとして登録することに決定します。気を付けたいのはKT90はKT88の上位球であってEL34と差替え出来るかどうかはアンプ側の仕様に依存するということ。少なくともKT88/EL34コンパチを謳っているアンプならお使い頂けると考えて良いでしょう。超オススメです!!