
その後、期せずしてオーディオの仕事に身を賭すことになって20年。幾つかの奇跡のような出来事があった訳ですが、その一つが若き自分が憧れてやまなかったTさんに自分が手掛けた製品を納めさせていただく僥倖に恵まれたこと。先日のSV-310EQそしてこのたび頂戴したSV-284D/セトロン845仕様のご注文。”この機会を逃してなるものか!”とばかり実機のテストをしていただく大義名分で今日Tさんのリスニングルームにお邪魔させて頂くことが出来ました。そこはまさに私にとっての聖域でした。


ひとしきり音と映像の洪水に浸ったあと、スクリーンが自動で上がり部屋の照明が明るくなってTさんが悪戯っぽく微笑みながら”時々真空管で鳴らしたくなるんですよ”と仰って聴かせて頂いたのがイタリア”Unison Reserch”の真空管アンプシステム。

早速SV-284Dに灯入れします。心なしかドキドキする気持ちを抑えつつ結線。

ブースターアンプの目的はパワーの増大だけでない…このブログでも何度も申し上げてきました、増幅系のゲインが上がることで今まで零れ落ちていた微小レベルの信号を拾い上げ、広大なダイナミックレンジの獲得と音楽の情報量(表情)が格段に豊かになる…それこそがブースターアンプ導入の真の目的であると。果たしてTさんのR1でもSmt845単独ドライブとは全く違った音の世界が現れました。
ひと言でいえば”音の彫りの深さ”…全帯域において音のエッジが立ち、写真でいえばフォーカスがシャープになるだけでなく6kHz~8kHzの聴感レベルが1dB程度上がって聴こえ、60Hz~80Hzの帯域の音階が明晰になり、今まで聴こえて来なかったニュアンスまで聴こえるようになります。更に言えばM600バイアンプ使用時はアナログのサーフェスノイズがかなり鋭角に聴こえていたのがSmt845+SV-284Dでは音というより”フッ”という気配に変化する感じで、まさに真空管アンプの真骨頂ここのありという鳴り方に変化しました。
声を発せず黙して音楽に集中していたTさんが仰ったひとこと…”合格”。半世紀以上に亘りオーディオの可能性の限界に挑んできたTさんの言葉は私にとっても大変重いものでありました。

埼玉を出て向かったのは有楽町東京国際フォーラム。明日から始まる”音展”で行われる最後のイベント(日曜15時半~)、公開収録の現場下見と機材チェックです。



明日は別件で私は会場には居ませんが、公開収録当日は早めに会場入りして各ブースを回らせて頂きたいと思っていますので、もし見かけた方は是非お声がけ下さい。オーディオ談義に華咲くのもこういうイベントの楽しみの一つです。楽しみにしています。