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ジョンソンさんの思い出

今日は東京のMさんのことを忘れないうちに書いておきたいと思います。傘寿を過ぎて一人でキャリーバッグを引きながら泊りで試聴にこられたMさん。ご希望のSV-2300LMの試聴そっちのけでジャズ全盛期の東京の思い出話を聴かせていただきました。それはそれはとても楽しいひと時でした。

Mさんは今日こちらへ来られる際も英文の原書を携えられ電車に揺られてきたと仰いますが、どうやって英語を?…と伺うと昔を思い出すように少しづつ色々なお話をして下さいました。

…昭和30年前半に八重洲口の「ママ」というジャズ喫茶があってね。コーナー型のスピーカーがモノラルで置いてあって…あれは今思うとJBLのハーツフィールドだったかもしれない。そういえば新宿の「汀」(なぎさ)にも通いました。
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(転載許可:ハイファイ堂本店)

ママに行くといつも相席になる黒人のお客がいたんです。小柄だったけどお洒落な人でしてね…私語禁止の店内でお互い喋る訳でもなく彼はいつも決まったピアニストのレコードをリクエストしていました。お互いおし黙ってジャズを聴いていたんですが、ある時、英語で書いたメモを渡されたんです。当時の私は何を書いてあるかも分からないし英語が喋れたわけでもない。家に帰って辞書を引きながら彼と筆談のコミュニケーションが始まったんですよ。

彼は立川の米軍基地からママに足しげく通っているようでした。どうやらPX(Post Exchange:購買部)でレコードを買っては都内のジャズ喫茶に卸していたらしいんです。普通では手に入り難かった輸入盤のLPはそんな風にしか手に入れられない時代だったんでしょう。
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その人はジョンソンさんといって、そのうち親しくなりましてね…当時住んでいた私の家にも来たことがあります。粋に帽子をかぶってね…ケーキを蕎麦屋の出前みたいな感じで手の上に載せて…そんな事がきっかけで自然と英語を覚えて外資の航空会社に入社したんです。会社の研修でNYへ行って本場のジャズクラブにも通いました。

狭いクラブでね…アート・ブレイキーはミカン箱に腰掛けてドラムをやってたな。当時のアメリカでは有色人種に対する差別がひどくてジャズメンは皆貧しかった。自分もつらい目に遭いました。

ジャズにのめりこんで銀座のヤマハでJBL4344を買ったのが70年代の終わりごろ。アンプはマランツ7とマランツ9の組合せが良かったですね。他にもダイナコMkIIIやマッキン240も使ったけどみんな良い音だった。4344のエッジがボロボロになった時はショックだったけど修理に出して快調です。今は国産の高級プリメインを使っているけど、どうも昔聴いた音と違う気がしてずいぶん久しぶりですが真空管の音を聴いてみたくなったんです。昔、高級真空管というと2A3だった。300Bを一度使ってみたくてお邪魔しましたが今日はあっという間でした。楽しかった…

ずっと前のオーディオ雑誌だったと思うのですが”オーディオはその人の人生が鳴るもの”という文章を読んだことがあります。今日試聴室で聴いて頂いた音は極めて短時間で私どものデモ機を通じて鳴ったものでしかありませんが、Mさんの中で眠っていた遠い記憶を呼び戻す何かがあったのかもしれません。気がつくと私も半世紀前の東京,NYにタイムスリップしたような気分になりました。ジョンソンさんは今なにをなさっているだろうか?ジョンソンさんはMさんのことを覚えていらっしゃるだろうか?…そんな気持ちになったひと時でした。

オーディオって素晴らしいな、そんな気持ちに誘って(いざなって)くれたMさんに心よりの感謝を捧げます。


by audiokaleidoscope | 2018-05-23 20:47 | オーディオ

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