二つのアプローチ…機能性かオリジナル性か?

いわゆるヴィンテージアンプのメインテナンスにも色々な考え方や手法があります。今日ご紹介するのはMcIintosh C22オリジナル(60年代/117V仕様)。
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製造されて約50年のこの個体。入って来た時はメロメロに近い状態でした。接点はガリガリ。左右のゲインが聴感で数dB違う。特にフォノ入力の音が変(低域が渋い)等。

例えば皆さんがこの個体のオーナーで何とかしたい…と思って修理屋さんに持ち込むとします。ではどの店にお願いしたらいいのか、まずこれが悩みどころですね。実際同じ修理でも店の選択によって方針やメンテ内容は大きく変わります。任せっきりにして直ったものの自分の意図(希望)とは全く違っていたと言ったところで後の祭り。

修理とひとことで言っても様々…まず一つ目は”機能優先修理”。つまり基本的に”悪い部品は替えちゃいましょう!”という考え方です。装置として機能回復を優先するアプローチです。

もう一つの考え方は”温存優先修理”。ヴィンテージ製品の希少性をキープしつつ出来るだけ元々ついていた部品あるいは製造当時の部品を使ってオリジナル性を保つアプローチです。極めて手間のかかる地道な作業の積み重ねが必要なことが多く機能優先修理よりも費用がかかり不具合再発のリスクも高いところが難点です。

どちらが正しいとか正しくないということはありません。直して欲しい方のニーズと直す側のポリシーが合致していればいずれも妥当性があるといえる訳ですが、今回は温存優先で対処した事例をご紹介します。真空管は永年の使用で劣化している状態でしたので一旦現行球に全てリプレイスしてアンプ本体の現状確認をすることにしました。

先ずは目視検査。
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上蓋を開けたところ。幸いこれまで変な弄られ方はされていないようです。コンデンサー(SPRAGUE Black Beauty 160P)も大丈夫そうです。
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これは底板を外したところ。よく見ると手が入っている部分も見受けられるもののオリジナル性が十分保たれています。ただし当たり前のことながら大切なのは音そのものです。

何よりも気になっていたフォノ入力の音。これを測定してみると…
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残念なF特…フラットなのは700Hzまでで以下はダラ下がり。50HzでLch/2.5dB,Rch/4.5dB落ちという状況です。最初音を聴いた時の”なんだこの音?”と思った原因はイコライザモジュールの劣化でした。上の写真でいえば褐色の四角い板状のものが幾つか見えると思いますが、これらが当時のモジュールでうち2つがRIAAイコライゼーションを司っています。ここを替えれば復活するのですが代替品の入手はほぼ不可能です。

機能優先修理の場合は躊躇わずモジュールを除去してイコライザー回路そのものをリプレイスする訳ですが、今回はオリジナル性とその音を尊重し補正用CRの外付けによってなるべく元の特性に近くなるように修正。
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これが修正後のF特。完全とまではいきませんがモジュール内部に手を入れられない外付け対応としてはこれが限界です。30HzでLch/2dB,Rch/3.8dB落ちというところまで改善したので一旦この状態で止めておきます。触れば触るほどオリジナルの音から遠のいてしまいますので。

機構系に関しては摺動系はガリガリ,接点系はバチバチで全てNGという状況でしたのであらゆる部分でアルコール洗浄を実施。一部の接点系でまだ微かにプチノイズが残っていますが、日々使って接点が活性化するのを見極めつつ暫く様子を見ることにします。

今回一番の難関はボリュームでした。”ギャングエラー”と言われる左右のレベル差がかなり大きく、それも摺動角(ヴォリュームレベル)によりレベル差が変動する状況です。厄介なのはヴォリュームをゼロから上げていった時のギャングエラーとMAXから下げていった時のギャングエラーが同じ位置でも異なること。ヴォリュームの内部構造には詳しくないので想像の域を出ませんが、可能性としては長年の使用で軸と摺動子間で隙間あるいはセンターずれが起こっているのかもしれません。

情報では交換用のヴォリュームが入手できるとのことですが、音がかなり変わるという情報もあって悩んだ末に交換はせず、最も良く使う時計の9時~10時のレベルでギャングエラーが最小になるように調整しました。C22にはバランス調整だけでなく出力レベルのトリマーがついているので実使用上は全く問題ありませんが、ここが温存優先修理のジレンマで悩ましいところでもあります。

そんな積み重ねの結果

1. フォノイコライザー部

・ゲイン L:60.4dB, R:60.0dB
・残留ノイズ L:0.16mV, R:0.16mV ※ヴォリューム10時位置
・周波数特性 L:-2dB, R:-3.8dB at 30Hz/ L:-1dB, R:-0.7dB at 20KHz

2. フラットアンプ部

・ゲイン L:20.1dB, R:20.2dB
・残留ノイズ L:0.1mV, R:0.1mV ※ヴォリュームMAX時位置
・周波数特性 L:10Hz , R:10Hz / L:-30kHz, R:-29kHz at -3dB


というデータが出ています。温存優先修理の難しさを改めて感じていますが、今も出音を聴きながらこれでよかったと感じています。特に300Bプッシュプルとの組合せは抜群です!現在サイン波でなく音楽信号でエージング中…。
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by audiokaleidoscope | 2018-05-14 23:59 | オーディオ

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