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現象と知覚 ~外観と内面の相違~

今日調べものをしていて過去のアーカイブデータを検索していたら2014年2月のタイムスタンプでこんなメモが見つかりました。何の為に書いたのか…或いは何かの取材準備のためなのか収録時の備忘なのか今となってはサッパリ思い出せませんが、当時も今も全く変わらないことを考えていることが分かって我ながら進歩してないな…と苦笑しつつ転載させて頂きます。結構深いテーマかもしれません。


現象と知覚 ~外観と内面の相違~  2014/2/4 記

こういう仕事をしていると目に見えない”音”とは何かを考えることが多い。
私の仕事は真空管というデバイスとそのデバイスを動作させるための回路技術を通して”いい音”のイメージを具現化する事ともいえるが、音の評価は人それぞれであり、明確な正否(優劣)が存在する訳ではない。ここが実に難しく一方で奥深く、たまらなく魅力的な所以でもある。

音の評価はさまざまである。
一つは定義づけられた環境のなかで現れる定量性を以て音を判断する手段(測定)である。オーディオ機器は音楽を再生するためのものでありながらノンリニアな”演奏”を用いて客観的,定量的な判断することは不可能なため、音楽の代わりに例えば1kHzの正弦波であったり矩形波を入力し、出力端に現れる信号の直線性や近似性を以て性能を計測する行為によって電気的動作が正常であることを俯瞰する行為は必須であり極めて重要である。

一方人間には知覚(感覚)という尺度が存在する。
これは測定から得られた結果とは必ずしも一致しない。たとえば”錯視”をオーディオではどう捉えるのか…現象と知覚(いいかえれば外観と内面の相違)をどう評価する(あるいは否定する)かということに繋がっていく。
現象と知覚 ~外観と内面の相違~_b0350085_02331663.jpg
※画像はWikimedia Commonsから転載

厄介なのは錯視が基本的に人間に共通の知覚であって恐らく視覚以外でも我々は共通の”知覚の歪み”のなかで生きている可能性が高いことである。この事実は極めて興味深いことであり、オーディオ機器が単純な変換器ではないことを暗示する一つの手掛かりともなっているのではないか。

真空管増幅器がもつ”響き”の要素を”高調波”と言い換えた時、入力に含まれていない応答が出力に現れるという点において純技術的には歪みという事も可能であるが、この高調波こそが音楽再生のうえでの最大の魅力であると感じる人が多いのも事実であり上記の錯視に通ずる人間共通の知覚ということも出来る。

これを写真と絵画の比較に例えてみる。
形而的(物理的)情報の記録が写真の主目的とすれば、ある物質あるいは事象を通じて与えられた心理的インパクト(印象)をキャンバスに置き換えたものが絵画と言うことも出来る。或いはより多くのリアリズムを絵画から感じる場合もあろう。つまり人間は五感によって得られた情報を脳内で再構築して”感じる”という行為に転化しており感受性という言葉はその転化の差異を総合的に表現しているともいえる。

オーディオ機器の評価にあたり常に壁となるのが、”オーディオ的に優れている”ことと”音楽的に魅力的”であることは必ずしも一致しないことである。
2013年9月4日の実験でリスニングポイントに無指向性コンデンサーマイクを置きオートQ(自動イコライジング)機能によって25Hz~16kHzまでをフラット補正した状態と補正なし(80Hzで2.2dBのブ―ミング,45Hz以下13kHz以上で減衰)の状態で特定の楽曲をブラインドホールドテスト比較したところ被験者12名中11名が補正なしの音を好ましいと感じたという結果が出た。これは何を意味するのか。

測定によって取得された現象と人間の知覚は必ずしも一致しない。この矛盾を乗り越え、その間に横たわる溝を少しでも埋めることが自分の本質的な使命なのかもしれない。





by audiokaleidoscope | 2018-05-08 23:59 | オーディオ

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