
写真に”Studio & Archive”と書いてありますね。ここは所謂レコーディングスタジオではなくトラックダウン,ミキシング,マスタリング等の工程を主に行うところ。そしてアーカイブというのは日本コロムビア創業100年以上の歴史のなかで生まれ愛されてきた膨大な音源を最新のデジタイズ技術によって半永久的に保存するための作業を指します。

ここの責任者でもあるFさんとエンジニアのTさんに番組ゲストとして登場して下さったのが1年ちょっと前。番組のなかで取り上げたORTプロセスの考え方に共鳴し、直後の東京試聴会ではORT音源だけで構成したデモを行ったり、先月の試聴会でも客席にいらっしゃったFさんに急遽ご登場いただいてORT技術について説明して頂いたり、急速に密接な関係性になって本日に至った訳です。Tさん曰く、”スタジオの命はD/Aとモニター”。その心臓部に採用いただけて光栄の極みです。

ここから先は企業秘密になりますので私から詳細を申し上げる訳にはいきませんが、ごく簡単に言うと可聴帯域外(20kHz以上)に元々存在していたであろう偶数次の倍音(二次,四次)を加えるというもの。ポイントは二次の高調波と四次の高調波のバランスと位相。僅か数サンプル(CD音源でいえば1サンプル=1/44000)の高域の位相をずらしただけでも空気感が変化するのが耳で分かります。
Fさんによればこれをパラメータ化するのではなく元の音源一つ一つに最適化するため全て耳で確認してフィックスするのだそう。気の遠くなるような職人の匠(たくみ)としか言いようのない世界ですが、我々的に言えばクロスオーバー20kHzのスーパーツィーターを1mmオーダーで前後させることで音場の出方が変わるのに極めて近い世界といえばナルホド!と思っていただけるかも。要はそれを原音源レベルで最適化するのがORTといえるでしょう。
話はここで終わりませんでした。日本コロムビアといえば明治43年(1910年)に(株)日本蓄音器商会として発足(F.W.ホーン社長)。「シンホニー」「ローヤル」「アメリカン」「ユニバーサル」「グローブ」などのレーベルによる片面盤発売や「ニッポノホン」蓄音器4機種発売(初めての国産機)という輝かしい歴史をもつ老舗です。その100年余の歴史のなかで生まれた音源が全てここで管理されている、まさに私たちにとってのここは音のエルドラド(黄金郷)。垂涎のお宝がそこかしこに…。



そして日本コロムビアという会社が最近プレゼンスを大いに上げているのがLPのカッティング。特に音に拘るアーティストがLPを切る時にコロムビアさんの門を叩いています。例えば井筒香奈江さんの”時のまにまにV”。例えばウイリアムス浩子さんの”My Room”。最近は他社からのオファでLPを切る機会がどんどん増えているというのは嬉しい話です。





Fさん(技術部)の部屋には…。







私が真空管アンプを通じてモノづくりの素晴らしさを伝えようと思って来年で20年。独りではじめたこの仕事も気がつけば様々な先輩や仲間との接点が生まれ、知らないうちに大海原に小船で漕ぎ出した様な私どもですが、こんな夢の世界に関われただけでも本当に幸せだな…と心から思えた一日でした。Fさん、Tさん、有難うございました!!