今回の東京試聴会ぶじ終わりました!ご来場いただいた皆さんは勿論、陰で私たちを支えて下さったメーカー各位,物販でお世話になった
ディスクユニオンJazz Tokyoさん、番組PRで二日何フルでアテンドしてくれた
ミュージックバードさん、ゲスト参加して下さった
高田英男さん(レコーディングエンジニア)、
井筒香奈江さん(Vo)、
四家卯大さん(Vc)、
原田百恵実さん(Vn)などすべての関係者に心よりの感謝を捧げます。
では2日間の試聴会を振り返ってみたいと思います。まずは初日から…。
最初のテーマは”初めての真空管アンプ選び”。ひと口に真空管アンプといっても球の種別で言えば三極管と多極管があり、回路形式で言えばシングルとプッシュプルがある…大別して4つのカテゴリーに別れることから説明を始めました。そしてそれぞれのカテゴリー、三極管シングル,多極管シングル,三極管シングル,多極管プッシュプルにはそれぞれ音質的特徴があり、基本的に三極管はヴォイシングチャート的には左下、多極管は右上に位置し、シングルは球固有の個性(味わい)、対してプッシュプルは回路(ならびに動作条件)固有の個性を楽しむものであることを最初に理解していただいたうえで、具体的にそれぞれのアンプの音をリファレンス(共通)曲+アンプの持ち味をよく出してくれる曲の二曲で構成してデモを行いました。
理想的には4カテゴリー全てのアンプを1台づつ所有することで真空管アンプの最大の魅力である楽器性…鳴りの違いを120%楽しめる訳ですが、まずは最初に何を選んでいいのかよく分からないという方に向けて水先案内が出来たらいいな、と考えて今回もっとも準備に時間を掛けたのがこのコマでした。
敢えていえばクラシック向きの三極管、ジャズファンにユーザーの多い多極管である訳ですが、決してそれだけに止まらない百花繚乱の世界があることを一人でも多くの方に感じていただきたい…そして”この音が好きだな”というカテゴリーが何となく見つかることを目標としてなるべく電気用語や技術的タームを使わずにデモしたつもりです。
そしてウインズタイム。村瀬さんとコラボして満を持して投入した
Vintage S12の初お披露目です。
1980年代に入りスピーカーの在り様はすっかり変わりました。箱鳴りを嫌いユニットのピストンモーションと周波数特性のリニアリティを優先することによって、スピーカーの能率が下がり、LCネットワークが複雑化して(負荷として重くなり)、軒並みドライブし難いスピーカーが増えたのがこの時代。それによってアンプは小型金庫なみに巨大化し、普通のアンプではとてもドライブ出来なくなって自ずとハイエンド化を突き進んだのが、この30年余のオーディオの流れではないかと自分では感じています。
そんな環境のなか恐らくメーカー製量産スピーカーとしては今後二度と生産されることはないであろう、響きが豊かで開放的で且つ屈託がなく、低出力の真空管アンプでも(敢えて言えば真空管アンプだから)美しい音で鳴る、1970年代(以前)の音を再現しようじゃないか、という狙いで生まれたS12。ヴォーカル,ピアノ,弦…あらゆるソースを実にたっぷりとした量感と音場とともに鳴らしてくれました。来場された方の関心も極めて高く、ペアで本当にこの値段なのか、ホーンツィーターは標準で付属するのかという問い合わせ多数。モチロンです!とお答えすると多くの方が驚いておられたのが印象に残っています。
そして初日2回目の私のデモテーマは”真空管+ハイレゾで至高の音を聴く”。デジタルとアナログは今や対極的な概念でなく、最先端のデジタルオーディオ技術は”如何にアナログライクな自然さとニュアンスを有するか”を指向していて、真空管アンプが持つ自然な倍音感こそがハイレゾ音源を最も有意に鳴らすソリューションであることを実際耳で感じていただくことを目標としました。ゲストはレジェンド高田英男さん。
約1時間のプレゼンのなかで最新のレコーディング環境がデジタル機器の利便性,制作の効率化とアナログ機器(特に真空管EQ,コンプ,マイク等ヴィンテージ機器)による音質重視の両輪で回っていることを熱く語って下さいました。特に印象に残っているのが「レコーディングはオーディオ特性以上に”求める音”を明確にして臨むことが重要なんです。演奏者の感情・気・緊張感・・音で感じ取ることが出来るような録音こそがいま求められています」という言葉。40年余レコーディングの最前線を走り続けてこられた高田さんが数値(データ)で現れない質感やニュアンスを最も大切にされているという言葉は私どもにとっても非常に重く有難いエールでもありました。非常に熱心なオーディオ愛好家の皆さんが高田さんのプレゼンテーションの為に駆けつけられ、極めて熱気溢れるひと時になったと思います。通常私たちが決して聴くことが出来ないスタジオマスター音源、384k/32bit音源の凄まじさに多くの方が驚かれたようです。
そして初日のもう一人のゲストは井筒さん。
彼女の音源(時のまにまにV)を
ハイレゾとアナログ両方の比較試聴をやったりして盛り上がりました。
これがハイレゾ版の波形画面。全くコンプレッションのかかっていない、波形が極めて美しいフィッシュボーンシルエットになっていることで音の良さに改めて納得。
そして始まったサイン会。新譜LPが飛ぶように売れてアナログ健在なり!と改めて感じました。
そして二日目。最初のデモは”新アナログプレーヤーを聴く”というテーマです。
私どものお客さまのなかでアナログ実践率はだいたい35%~40%だと思っていますが、このコマに際して会場で伺うとほぼ全員の方がLPも聴いていらっしゃるということで、ニューモデル
SV-A3に寄せる皆さんの期待の高さを感じた次第です。
今回最大のテーマであったユニバーサルカートリッジ対応のアームの調達に関して、既存のものは単体で20万以上、いわゆる高級品だと軒並み数十万という世界のなかで、昨年メーカーにアーム試作を依頼したものの結局満足のいくものが出来ず、最終的に100%オリジナルのアームを作ろうと決意したのが今年に入ってから。その後約半年を経てやっと音が聴いて頂けるレベルにまでなったという状況です。幾つかの大きな課題が残っており、本当に製品として出せるのかは全く見えていない状況にあるなかで習作のご披露が先行した試聴会となりました。
単にLPを掛け続けるのは芸がありませんので、幾つかのソースをピックアップしてCD/ハイレゾとLP同音源の比較を行うことにしました。写真はBest Audiophiles Voicesのマスタートラック(192kHz/24bit)とLPの比較のひとこま。質感を正しく評価いただくために音量も同じにしなくてはなりませんし、シーンと静まりかえった会場で緊張のひとこまです。このコマでは基本的に全て
Referense35を使用し、よりモニター的な試聴を心がけました。
後半は誰もが持っている名盤大会。ここではフォノイコライザーによる音質の違いを感じてみましょう、ということで
SV-396EQと
SV-310EQのみを入れ替えながらの比較試聴。音量も同じの設定しなくてはいけませんので思わず指先に力が入ります。SV-396EQは
SV-284Dシリーズのフロントエンドですので845の高域の鮮度感とリニアリティの高さにマッチしたクリアなサウンドを目指しています。対してSV-310EQは
SV-91Bシリーズに属しますので、300B的な豊潤で密度感のあるサウンドを指向しています。MCトランスはいずれも橋本電気製ですし、CRイコライザー部の定数も全く同じであるにも関わらず大きく表現の異なる両者の個性に関心が集まりました。
そして最後のデモは”サンバレー旗艦シリーズモデルを聴く”というテーマ。これまで私どもが手掛けてきた累計数十機種のなかで、フォノ/プリ/パワーをシリーズ化したモデルはSV-284DとSV-91Bの2ラインのみです。
同じ直熱三極管でありながら出音が全くことなる両者。高域の輝かしさとシャープなエッジ。そして低域の締まった845とゆったりした倍音が極上の響きを醸し出す300B。真空管アンプに魅せられた者が最後に目指すと言われるこの2つの球の個性を100%引き出す為に作り上げたこのシリーズモデルを同音源で聴き較べてみようというテーマです。曲を聴かれたお客さまに伺うと”こんなに音が違うんですね!”と仰る方ばかり。従来の試聴会でもずっと球の個性を感じて頂こうと色々と策を講じてきた訳ですが、今回のパターンが一番分かり易かったのかもしれません。私は上手(かみて)のサイドでオフセンターどころかスピーカーのサービスエリア外にいる訳ですが、それでも845と300Bの決定的な違い…いいかえれば各楽器の存在が浮かび上がるように個別に立ち上がる845に対し、300Bは各楽器のハーモナイズした和声に陶然とする、その違いをしっかりと理解できた気がします。別の言い方をすれば845は近い音で直接音的、300Bは距離(空間)を感じる間接音的な表現と言えるかもしれません。こんなことをこれまで何百回とやってきた私自身にとっても印象に残る比較試聴が出来ました。
そしてお待ちかねの恒例生演奏コーナー。今回も四家さんと原田さんにミニコンサートをお願いしました。
1700年代のオールドチェロの素晴らしい胴鳴りを披露下さった四家さん。
そして桐朋学園大学音楽学部を首席卒業という輝かしいキャリアをお持ちになる原田さん。若き新星です。
今回は演奏だけでなく、ちょっとしたクイズも。お二人とも数万,数十万,数百万という3本の弓をお持ちになり、どれが一番高級な弓でしょうか、という格付チェック的難問。隣で聴いていても明らかに弓によって楽器の鳴り方が異なって聴こえることが分かって非常に面白かったです。私のような楽器の素人でも安い弓はちょっと聴くと快活な表現のようでいて、聴き較べると高価な弓のような奥行感(あるいは陰影感)に乏しい側面があるのかな、という感じでした。オールドの弓は音は渋いが遠鳴りするのかもしれません。間近で聴く生音の素晴らしさからオーディオへの情熱を高めて欲しい、という想いから最初の東京試聴会から継続してお願いしているこのミニ試聴会。次回は誰にお願いしようか…今から考えなくては!
そんな訳で今回の東京試聴会、前回よりもかなり多くのご来場をいただき、楽しい二日間となりました。業界関係者,音楽関係者の方も沢山お越し下さって、あっと言う間に終わってしまった感じです。
こちらはギタリスト、
小馬崎達也さんと小馬崎さんが主宰される”パンゲア”というユニットで一緒に活動されている
仲林利恵さん(篠笛・能管・箏)。小馬崎さんは大のヴィンテージオーディオマニアです。
いつも温かいメッセージとともにお花を下さるNさん。いつも有難うございます!次回東京で音を出すのは10月の真空管オーディオフェア。今回のイメージを忘れず、次回もベストを尽くします。皆さん二日間本当に有難うございました!!