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(4/20)マッチドペアの意味

最近多いのが”SV-○○は真空管を替えた時に調整が必要なんですか?”というお問い合わせ。回路的に言えば自己(セルフ)バイアスは無調整、固定(フィクスト)バイアスは要調整となる訳ですが、キットをご自身で組立てられた方は分かっていても、誰かから譲ってもらった、或いは中古で買ったという場合などは自分のアンプが無調整なのか要調整なのか分からないのは無理もありません。

ヴィンテージアンプの中には”調整出来ない固定バイアス”もあったりします。これはどういうことかというと2組の出力管の動作のバランスをアンプ本体で調整するのでなく、真空管そのものによってマッチングを取る方法です。昔は真空管は値段も安く半ば消耗品のようなものだったので沢山の球から順列組合せを変えて動作が最適となる組み合わせを見つけることも容認されたのかもしれませんね。オリジナルのMC240やMC275などがその代表例です。

少々厄介なのが4本揃いの出力管を買ってくればドンピシャになるかというと残念ながらそうではないこと。厳密にいえば選別時の動作条件と皆さんのアンプの動作条件が一致すればOKと言える訳ですが、そんなことは稀で多くの場合選別条件と実動作条件は異なっているのです。メーカーによっては真空管の選別と破壊試験を兼ねて行う場合があり、極端にプレート電圧を上げ,電流的にも最大定格に近い環境でマッチングを取っている場合もあります。条件が違っても一定範囲内であればいいのですが、オーディオで使われる標準的条件(Typical)と最大定格(Maximum Rating)に近い条件では測定値もかなり異なることから、やはり固定バイアスアンプの場合は時間をかけて調整を行って、アンプが最良の条件で動くようにするのが使う側の愛だと思います。車のタイヤが4本とも空気圧が違っても真っ直ぐ走りませんからね。

最近こんなことがありました。Gold Lion KT88を2ペア欲しいというお客さまからの電話です。この球は現在KT88系で最も人気がありますし、造りも綺麗な球ですが、お話を伺うと”この球の音が好きで使ってきたが直ぐに音が歪っぽくなる。手元には使えないGold Lionが12本ある”と仰るので、”Gold Lion KT88は決してそんな悪い球じゃないですよ。それにすぐダメになるような球でもありません。ウチから買うのは何時でも出来ることですし、他の店で買った球でも良いですから、まず一度手許にある12本を私のところへ送って下さい。本当に球が劣化しているかチェックしますよ”と申し上げました。私どもからお求めいただいて1年でダメになったとお叱りを頂くことも辛いですし、実際そんなヤワな球じゃないという信念みたいなものがありましたから。

数日経って北海道からお話の通りGold Lion KT88が12本届きました。買った店が付けたと思われる選別データが外箱に貼ってあるものもあります。見たところゲッターもしっかり残っていますし、外観上傷んでいる様子も全くありません。球と一緒にお使いのアンプの回路図が同梱されていますので見てみると…。
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これはスゴい!KT88のプレートが570Vと超高め。固定バイアスで-C電圧が75ボルトと超深め。設計意図としてはアイドリング電流を絞ってB級動作に近いオペレーションで、音質よりも出力を狙ったものでしょう。恐らく100W/ch近く絞りだそうとしています。ただ、この条件だから直ちに球が壊れるということにはなりません。お送りいただいた球を一本づつ測定してみることにしました。

測定器は使いません。まずSV-128Bを使ってそれぞれのKT88の健康度を診てみようというものです。まずはデモ機で使っているGold Lion KT88でIp=60mAになるようなバイアス調整を行います。次に左chのKT88はそのままにして右chのKT88を一本づつお預かりした球に替えていくのです。こうすることで、球によってデモ機用のKT88よりも電流が多く流れたり少なく流れたりすることが観測できる訳です。アンプで条件設定しておいて球を差し替えて挙動を見る。まさに自分のアンプでしか出来ない芸当です。

確かに目いっぱいの条件で球を使い続けていれば消耗速度は上がるでしょう。そしていずれ”エミ減”(定格電圧を供給しても適正電流が流れなくなる状態)になります。いわばタイヤがスローパンクチャーになっていると考えると分かりやすいかもしれません。
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写真では50mAの電流が流れていることがテスターの値から読み取れます。この電圧は一次側(AC100V側)の変動によって絶えず揺さぶられていますので、そんなにシビアに見る必要はありません。今回は測定条件を揃える意味で通電後120秒後の電圧を取得しました。また真空管には個体差があります。大型真空管になると同条件でもプレート電流の流れ方がプラスマイナス50%ぐらいバラつく球もあります。だからこそマッチドペアという概念が必要になってくる訳ですが、今回診させて頂いた球は実測値で50mA弱~70mA弱の範囲内に全て収まっており、正規分布していました。つまりお客さまが仰る”音が歪っぽい”というのは少なくともKT88に依存していないことがデータから証明されたと言っていいでしょう。

では原因は何か…それは分かりません。動作条件なのか、ほかの球あるいはパーツの劣化なのか。お客さまにこの事をお伝えすると、じゃあ、SV-8800SEを買うよ”と仰いましたが、先ずはアンプ自体がメインテナンスが必要な状況にあるかどうかをしっかり見極めてからでいいんじゃないですか…と申し上げた次第です。

真空管アンプはちょっとした使いこなしさえ理解出来れば半導体アンプよりも遥かに長持ちするものです。大切なのはまず自分のアンプが自己バイアスか固定バイアスか確認して、固定バイアスならば調整がちゃんと出来ているか確認することだと思います。オーディオは一生出来る素晴らしい趣味。使いこなしてこそ真価が分かるというものです。



by audiokaleidoscope | 2016-04-20 14:30 | オーディオ

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