今回のMUSIC BIRD「
真空管・オーディオ大放談!」収録は一本目”
大型送信管との戯れ~1kVの音を聴く”(4/29放送),二本目”
ウエスタンサウンドへのオマージュ~LM91A,LM86Bを聴く”(5/13放送)というテーマで二本録り。今回は大型機&モノアンプが中心で準備も大変でしたが、放送を通じてアンプや真空管の比較試聴が出来るという試みも定着してきて今回も楽しく進めることが出来ました。
ゲストは今回も”球友”(タマトモ)のTさん。Tさんが”こんな番組他では絶対あり得ないよね!”と仰っていましたが、まさにその通り!こういうチャンスを下さったMUSIC BIRDそしてリスナーの皆さんに大感謝です。
まず一本目はオーディオ用途としてはほぼ最大の規格といえる211/845の音を聴いてみようというテーマ。プレート電圧1KVに近い送信管アンプは近くて遠い存在ということもあり、実際に音を聴いたことはないという方も多いと思います。今回放送を通じて211と845の音の違いをお伝え出来たのは画期的なことといえるかもしれません。
用意したアンプは
SV-2(2010)。既に製造終了となっておりますが、211/845コンパチのプリメリンとして非常に人気のあったモデルです。当社伝統のパワー管ドライブ(EL34/6550/KT88)で出力管をフルスイングすることによって211/845の音の違いが明確に現れました。まずはGolden Dragon 211/VT-4C。外見的には見分けがつかない211と845ですが、211は中域に厚みがあり、音が前に出る感覚です。どちらか言うとジャズファンに人気があるというのも頷ける表現です。
ついで
Prime 845 ver.2。音は一転、高域に煌びやかな輝きが加わり、音場的拡がりが体感できる清冽な音。極めてクリアでハイコントラストな音をオンエアでも楽しんで頂ける筈です。
これはTさん所有のGE211(NOS)。写真では分かり難いですがフィラメントの光り具合が現行球よりも僅かにオレンジ色で非常に上品な雰囲気を漂わせています。音は更に厚みと量感が加わる感じでサスガ三極管”西の横綱”と言われるだけある堂々とした表現でした。
そしてこちらが超レアなRCA845。845系NOS球の中でもハイエンドと言っても良いRCA845は高域の質感そのままに中低域の量感を増した感じで実に麗しい音で一同ただ聴き惚れるのみ。Tさんのポリシーは”使ってこそのヴィンテージ”。蒐集を目的とするのではなく、自分のオーディオを更に魅力的に鳴らす為の最も有効かつ近道な手段がこれらNOS球による音のグレードアップという訳です。
一本目後半は845専用モデル、
SV-284Dの登場です。SV-284Dの一つの大きな特徴であるブースターアンプモードの音を聴いていただく為に選んだ前置アンプは懐かしいエレキットTU-870です。まずTU-870を単独で鳴らしたあと、SV-284Dを追加することによって、結果として現れるのは出力アップという電気的特性でなく、SV-284Dを追加したことで増幅系トータルのゲインが上がり、TU-870が単独ドライブ時よりも負荷が軽くなる(歪率が低い領域で動作する)ことによる情報量(聴感上のダイナミックレンジ)の増大,ニュアンスの向上という聴感上メリットでした。SV-284Dを導入する最大の効果は小型アンプの出力増大のみならず、本質的には下方リニアリティ(ローレベルの情報量)の改善であるということをオンエアでお確か頂ければ幸いです。
そしてSV-284Dの魅力を更に活かす為には
SV-300LBが必須です。SV-300LBはあらゆる真空管パワーアンプと接続可能な汎用プリですが、SV-284D専用のバランス駆動出力を備えており、ブースターでなくパワーアンプとして動作させることが可能です。そのためSV-300LBは当社初のパワー管ドライブのプリである必要がありました。紆余曲折の結果、汎用としてもSV-284D用としても300Bを採用することが必然の選択となった訳で、まさにパワーアンプそのものの外観がSV-300LBの秘められたポテンシャルを暗示しています。
SV-300LB+SV-284D直結の音。これはまさに直熱三極管の王様845と女王様300Bの組み合わせでしか聴くことの出来ない艶やかでキメ細かい、まさに真空管アンプの極致のような音でありました。お互いの長所を伸ばし、引き立て合う”黄金の組み合わせ”の一つです。
続いて二本目。キット屋というよりも私の長年の夢であったウエスタンサウンドの再現のため限定製造した
LM91A,LM86B。すでにいずれも完売となり、今後この音を聴けるチャンスも極めて少なくなったので、このタイミングで放送音源として残しておくことの意味もあるのではないかと思い持ってきました。
まずは標準仕様(
Prime300Bver.4)で。オールACオペレーション(全段交流点火)ならではの豊かな倍音と音色の自然さ、そして温度感の高さ…他のアンプからは決して聴くことの出来ない魅惑的な音を是非オンエアでお楽しみ頂きたいと思います。
そしてTさんのWE300B(刻印)+WE274B。1936年発表のWE91Aの音はかくや…と思わせるスーパーヴィンテージの世界です。静特性的には何ら見るべきところのない、しかしそれでいて限りなく美麗な音。なぜ真空管を志す者が何時しか”ウエスタン”というワードに魅了されていくのか…その秘密がこの音に秘められているかもしれません。
最後に登場したのがWE86(1934年発表)のレプリカLM86B。トランスドライブの300Bプッシュプルです。これは91Aを更に推し進めた音で”芯のある太さ”が最大の魅力。Tさん曰く”段違い!”…他のいかなる真空管アンプと根本的に異なる何かを感じざるを得ない音がスタジオを満たします。ウエスタン=古臭い音、と思っておられる方も或いはおいでになるかもしれませんが、これは全くの見当違いでWE86が発表されてから80年以上の年月を経て、逆にその後のオーディオが特性の向上と引き換えに失ってしまった何かを教えてくれるような特別の音でした。
大トリはオールWEバージョン。最後にTさんと話したのが、オーディオは単なる音を聴く道具では決してないということ。機器を所有するという意味を超えて私たちは自らの嗜好を音に置き換えて体現してくれるオーディオ装置と人生を共にする…一緒に暮らしているのだということをLM86Bを聴きながら改めて確認したような2時間でした。
音楽と共にある生活。この素晴らしさを真空管アンプの音を通じてこれからも伝えていきたい…今回ほど強く思ったことはありません。私にとって恐らくずっと忘れない特別な一日になりました。