冷たい秋の雨がそぼ降るなかTさん宅へ。伺うのはこれで3回目です。最初にお邪魔したのは
2か月余り前。当初と比較すると本当に別物の音になりました。
実は最初に伺った時、アンプの前に別の問題を発見しました。この仕事を始めて何百というリスニングルームを訪問させていただいてきましたが、今まで最も多かった問題点の一つを今日はご紹介します。ちょっとショッキングな画像ですが、皆さんのなかにも知らずに似たような状態になっている方が必ずいらっしゃる筈。サランネットを今すぐ外してみて下さい。
見ぬもの潔し…とでも申しましょうか。これは別のお客さまから預かったJBLのウーハーですが、スピーカー製造の長い歴史のなかで最大のミスジャッジの一つが、この”ウレタンエッジ”の採用であったと言われています。
抗張力や耐摩耗性、耐油性に優れるものの耐熱性や耐水性は他の合成ゴムに比べて低く、水分による加水分解や空気中の窒素酸化物、塩分、紫外線、熱、影響で徐々にエッジが分解されるという大きな欠点があるウレタン。特に高温多湿な我が国においては10年ほどで弾性が失われ、15年~20年で上の写真のようにボロボロに朽ちてしまいます。'70年代~'80年代のスピーカーに非常に多く採用されたウレタンエッジですが、劣化の進行がきわめて緩やかであるため異状に気付かず、なんとなく音がヘンだなあ…ということになってサランネットを外したらアレレ!こんなことに!!というパターンが過去何度あったでしょうか。TさんのXRTもミッドバスが同じような状態でありました。
当然のことながらエッジが破れている=スピーカーユニットのピストンモーションが正しく行われない訳ですのでエッジ交換あるいはリコーンが必須となります。昨今は自分でエッジ交換が出来るキットも売られていますが最低共振周波数(F0)が変わってしまったりL/Rで特性がバラついたりして改善のつもりが改悪になってしまうケースも多々ありますので、信頼できる業者(できれば製造元あるいは正規輸入元)に委託すべき事項です。
Tさんの場合はエッジのメインテナンス後、スピーカーの調整が大変でした。XRTシリーズには”
MQ107”というEnvironmental equalizer(パラメトリックイコライザー)が付属しており、極めて調整パラメーターが多いことから、多くのユーザーが”ナニをどうしていいのか分からない”ということで単に繋がっているだけ…というパターンが多くみられます。Tさんが国産半導体セパレートシステムを使ってこられて、どのような不満をお持ちかはお話を伺って十分理解できておりましたので、XRTらしく、それでいてネガティブな要素を除去するのに時間がかかりましたが、満足のいく結果が得られました。
そして今日、三回目。パワーが
SV-8800SE,プリが
SV-310に代わって音の世界観が別物に。Tさんが一番ケアされていた高域(4kHz~6kHz前後)の尖鋭感、耳に刺さるような痛い音は基音と倍音のバランスが崩れている証左ですから、真空管の最大の魅力(特質)である適切な倍音感によって”鈍らすのでなく音全体を"整える”ことが極めて重要であった訳です。
優先順位はパワーの次ですが、音のキメや質感を作るのはプリ。Tさんの長年のお悩みを劇的に改善したのはSV-310だったと言える結果でした。平板で抑揚感に乏しかったXRTから更なる奥行感と余韻が聴こえてきたようだとTさんも喜んでくださいました。
外観は初めて伺った時となんら変わっていません。しかし音は本当に別物に。年明け頃にもう一度お邪魔してMQ107の再調整を行って私の仕事が終わるんだろう…そう思った今日でした。