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(8/9)時には各駅停車で

皆さん、こんばんは。いかがお過ごしでしょうか?いつもと少し時間の流れ方が変わり、今日は少し違う角度から自分の来し方行く末を考えていました。

これまで何度も書いたり番組で喋ってきたことですが、元々オーディオとは全く関係のなかった私が真空管の世界に入ったのは、本当に不思議な偶然の連鎖の結果です。元々は単純にモノを作ることが好きだった。電気の理論も知識も希薄だった私が、何故かハンダごてを握ってラジオやトランシーバーやアンプを作ることが子供の頃から好きでたまらなかった。

元々、自分がミニマリズムを指向する人間であることは何となく分かっていました。小さい頃から小さくて(シンプル)で凝縮されているものに堪らなく魅力を感じた。それは小二の時に初めて作ったゲルマラジオの経験が原点かもしれません。

たった数点の部品を説明書の通りにくっつけ、アンテナ線を繋いでクリスタルイヤホンを耳に入れた瞬間、ごくごく小さな音で人の声が聴こえてきた、あの時の驚愕と感動。どうして電池も使っていないのに、数点の部品をくっつけただけなのに、ラジオが受信できるのか?…それは望遠鏡を覗く少年の気持ちと同じだったかもしれません…分からないから余計に興味が湧く…知らないからこそ知りたくなる。

その後、だんだん興味がオーディオに移っていったものの、紆余曲折を経て今の会社に入って自分の趣味がまさか仕事になるとは全く思ってもみないことでした。今の会社との出会い、そして会社で出会ったTさんとMさんという存在、まずこの偶然の連鎖がなかれば私がオーディオの仕事をすることは100%なかったと思います。今振り返っても本当に良い時代でした。

98年に”モノづくりの感動を一人でも多くの方に!”というスローガンを決め、「ザ・キット屋」を起業。最初はキットメーカーの製品を仕入れさせて頂くスタイルでしたが、直ぐに欲が出てきてオリジナルモデルの企画に着手したのが99年。そして何も分からず出展した「第6回真空管オーディオフェア」(’00年)が私の人生を決定づけたような気がします。

並み居る老舗,有名メーカーに紛れてテーブル一本で出展し、並べたアンプ2台(初代SV-2と初代SV-4)がまさかのクラフトオーディオ賞(来場者の投票によって決まるアワード)のパワーアンプ部門1位,2位に入ったと事務局のIさんから電話で伺った時は我が耳を疑いました。そんな賞があることすら知らなかったし、確かに凄い数の人が自分のアンプの音を聴いてくれてとても嬉しかった…そういう達成感だけで充分幸せだったのが、この受賞によって背中をバーンと蹴飛ばされたような状態になって、次,更に次…と気が付けば創業して18年目にはいろうとしているというのが本音です。

今ふと振り返ってみると、思えば遠くへ来たもんだ…というのが実感。こんなことになるとは全く思っていなかったから。…そんな事を思いながら、子どもの頃ハンダづけや電気工作のことを教えてくれたおじさん達から貰った本を読み返しています。
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今から67年前(昭和23年)に刊行された回路図集から。今様に書けば”3バンドトーンコントロール付6L6シングルアンプ”。本の紙質や印刷レベルは決して高いものではありませんが、終戦から3年後にこういう回路図集が刊行され、急速に日本が復興の途上にあっただろうことがこの本からも伝わってきます。

いま私たちが作っている真空管アンプと基本は何も変わっていない。この半世紀あまり、私たちは”新しいものは良い物だ”と教えられてきました。しかしその一方で何も変わらず生き残っているものもあるのです。
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巻末のクレジット。須田町は大戦直後には在日アメリカ合衆国軍から流れた真空管を始めとする電気部品を販売する露天商が軒を連ねた場所で秋葉原のルーツともいえる場所。
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そしてもう一冊。私のバイブル、昭和37年5月刊行の「ステレオ・ハイファイ製作読本」から6BM8シングルアンプ。本の名前こそステレオですが、内容的にはまだモノラルが大半でクリスタルピックアップ入力か、”レシーバー”といって高周波受信部(つまりチューナー)+アンプの構成になっているものが大半です。ここから急速にステレオの時代に突入し、昭和43年ごろには半導体アンプがだいぶ目につくようになります。ちょうど産業用素子としての真空管が一番使われていた頃。記事だけでなく表紙の装丁や広告なども時代を感じさせて実に良い風情です。
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表紙は「ザ・ピーナッツ」…スターです(笑)。当時のオーディオの盛り上がりを何となく感じますね。
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冒頭の回路図集の裏表紙。当時オーディオやラジオは買うというより作るものであった時代。

一見して旧いようで、実はその本質は殆ど変っていないオーディオの世界。こんな風に時々急行列車から各駅停車に乗り換えて、日頃見ているようで見えていない景色をじっくり眺めてみるのも良いものです。

この休みは時間をみつけてラジオでも一台作ってみようかと思っています。




by audiokaleidoscope | 2015-08-10 04:55 | オーディオ

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