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お化粧前とお化粧後

皆さん、おはようございます。2日連続の雨でどうもスカッとしません。
今日は良い天気になって欲しいものです。

早速ですが、時々J-POPあるいはロック系アーティストさんの発売前音源を聴かせて頂く機会があります。それは完パケ前のラフミックスであったりプリプロであったりする訳ですが、今日も名古屋に仕事で来ていた某アーティストさんが事務所の方と一緒に試聴室に寄られた際に来年春に販売予定の音源を聴かせて頂く僥倖にあずかりました。

このアーティストさんの音源を聴かせて頂くのは2年半ぶり。その時のことは今でもはっきり覚えています。

皆さんは"このCD(曲)って演奏はいいんだけど音がなんか変じゃない?"・・・と感じたことはありませんか。最近はデジタル領域で様々な処理やエフェクトが簡単に出来ます。それ自体は大変便利で80年代までの「良い残響は良いスタジオ選びから」という事も言われなくなりましたし、マイクのセッティングを何度も何度もやり直して自然な質感を・・・というような職人的レコーディングエンジニアさんも少なくなりました。

最近ちょっと気になるのが、特にJ-POP系アーティストさんの音源で「このマスタリングは少々やり過ぎなんじゃないかなあ」と思う音に出会うことです。昨今は音作りのプロセスも変化してきて昔のようにスタジオのラージモニターで音のチェックをせず、市場の動きに合わせて市販のシステムコンポやヘッドフォンでの試聴を重視して、”それ用の”マスタリングが行われる音源も少なくないと聞きます。実は今日いらっしゃった方は2年半ほど前に、試聴室に寄られた際、ご自身の音源を試聴室のシステムで聴かれて"え、こんな声?・・・ちょっと違うよね・・・"と大変ショックを受けられことをよく覚えています。

その方も自宅ではシステムコンポをお使いで「家で聴く分にはおかしいと思わなかった」と仰っていましたが、デジカメの
写真も小さなサイズであれば補正が有効であるものの、大焼きすると自然さが損なわれて逆に違和感ばかりが表に出るのと似て、オーディオでも装置の規模やレベルが上がるといわゆる”お化粧”が逆効果になってしまう場合も少なくありません。

参考までに下の画像を見て下さい。

お化粧前とお化粧後_b0350085_05422846.jpg

上の画像が"化粧前"、下が"化粧後"です。波形を見て同じ曲とはとても思えないと感じられる方も多いかもしれませんね。これは極端なパターンかもしれませんが、コンプを掛けてローレベルの音量を上げる(=ピークの頭を潰す)処理をしたことで"音が死んだ"一つの例です。


以前「下方リニア」について書いたことがありますがご記憶でしょうか。或る意味真空管アンプの真骨頂はこの「ローレベル時のニュアンスの美しさ」にあると思います。音がデクレシェンドして空気に音が吸い込まれていくような静寂感,空気感は真空管の最も得意とするところですが、どうしてもミニコンポではローレベルのニュアンスが飛んでしまって或る一定のレベルにまでエネルギーが減衰するとストンと音がなくなってしまう場合がしばしばあります。ピアニシモがまるで聴こえず、思わず音を上げたくなった・・・なんて経験をされた方も多いかもしれません。その音量補正を電気的にやってしまうのがこの処理です。

分かりやすいところではFM放送がいいかもしれません。皆さんがご家庭や車中でFMを聴かせる時、NHKと民放系で音量が違うと感じられたことはありませんか?実はこれがコンプありとなしの一番分かりやすい差異です。NHKでは極力コンプをかけないようにしていると伺ったことがあります。

この処理によってパワフルで常にドンドンいっているように感じますから、音が良くなったように聴こえるのかもしれません。特に最近はベスト盤,コンピレーション盤流行りですので、録音されたシチュエーションによって録音レベルがばらつく場合も少なくありません。こんな時もピークレベルを揃えることが出来ることも出来る代わりに大切なニュアンスが飛んでしまう・・・どこか音が詰まって聴こえる場合もあるのです。

今は写真でもパッと撮ってダメだと思ったら即撮り直しあるいは修正が出来る便利な時代になりました。でも便利が「安易」になってはいけないように思います。

オーディオにあまり興味の無い方が"こんな大仰な装置でないと聴けないもんかねえ"と嘲笑的に仰ることがありますが、私たちオーディオファイルにとっては良い音で音楽を愉しむために必要だと思うからこそ、一定の投資をして必要なセッティングを行ったうえで大切に音を聴こうとする訳です。演奏する側,音源を制作する側のメッセージを些かも逃すまい・・・私たち鳴らし手も出来る限り丁寧に再生してあげたい・・・そういう想いがあればこそのオーディオである訳です。

今日聴かせていただいた音源は2年前とは別物のニュートラルな音でとても共感を持ちました。何事も自然なままが一番。発売が楽しみです。


by audiokaleidoscope | 2014-11-27 04:45 | オーディオ

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